短編(2BRO.)

□大人ってのは
1ページ/25ページ




やっと仕事が一段落して岐路につけた。携帯を見るともう日付を超えて三時間が立とうとしている。だが、明日は休みだ、ゆっくり帰ろうと電車で来た道を歩いて戻り始めた。夜中に一駅分も歩くなんて卒倒しそうなくらい面倒くさいけど、今は家のベッドが恋しい。

家の近くに来た頃、家の冷蔵庫に食べ物があったか心配になってきた。それに家に帰って料理をする気にもならないだろう。コンビニによって適当にご飯を食べよう。


家の裏側にあるコンビニに入ると、けだるげに深夜番の店員がバックヤードから出てきた。深夜のコンビニにはパジャマ姿の男、夜遊びをしている若い男女、おおよそ生活感の見えない小汚い女など昼間見ないような恰好の人間が多い。かくいう私もくたびれたスーツにくしゃくしゃの髪、ボロボロの肌にはがれかけたメイク、人のことを言えた義理じゃないな。

廃棄すれすれのコンビニ弁当を取り、レジに並ぼうかと棚の角を曲がった時、目の前に立ちふさがる影があった。ボサボサの青い髪、たゆんたゆんのパジャマを来たその人物は、私を見るなり目を丸くしていた。眼鏡の向こうの目に見覚えがあるような、ないような。


「…兄者?」

「お前、レイか?なんだその恰好…。」


いや、パジャマ姿で外に出てる兄者も、と口をついて出そうになった言葉を飲み込んだ。この男に会うのは何年振りか。まだ私がいまの会社に入社する前によく遊んでいた知り合いだ。仕事が忙しくなる前は連日連夜遊んでいたものだが、忙しくなってからは自然と連絡を取り合うこともなくなり、疎遠になってしまったのだ。だが会っていない年月を感じさせることなく、兄者は私の持っていたコンビニ弁当とペットボトル飲料を奪い、自分のカゴに入れると話をつづけた。


「音沙汰無くなって心配してたが、結構元気そうだな。仕事の方は……まぁ、苦労してそうだけど。」

「まぁね。やっとひと段落ついて家に帰るところ。兄者は夜食?」

「おう、弟者とさっきまでゲームしてて俺が負けてやったから、遣われてるところだ。」

「何それ、相変わらず仲良いね。」


弟者、と懐かしい名前にドキリとする。兄者は弟と仲が良い。家族というより友達のようなその間柄はとても溶け込みやすく、弟者ともよく遊んだものだ。だが、私の心臓はドクドクと不穏な動きを続ける。兄者が次に発する人物の名前が分かった。


「あぁ、そういやおっつんが…。」

「兄者、ごめん私早く寝たいから。」


店員が商品をスキャンし、画面に表示された金額を読み上げる前に財布から一万円札を出してカウンターに置いた。ひったくるように選んだコンビニ弁当とペットボトル飲料を取って先にコンビニを出た。後ろから呼び止める声が聞こえるが、気にせずに自宅へとかえった。

聞き覚えならいくらでもある。兄者と弟者とおついち、それはかつての仲間でおついちとは付き合っていたいわば恋人だった。それも仕事が忙しくなるまで。連絡を取り合うのさえ億劫になって、兄者たちと一緒に疎遠になり自然消滅してしまった恋人だ。仕事の疲れを相談することもせず一人で抱え込み、挙句の果てには一方的に連絡を絶った彼女なんて…。自己嫌悪を飲み込み、コンビニ弁当を食べてすぐに布団へ入った。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ