短編(2BRO.)
□何人目?
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今日は大好きな兄者とのデートの日だ。週末にやっと休みが合って、約束を取り付けたのが二日前。それから入念に準備をして、きれいに身なりを整えてきた。付き合ってもはや二年。いまだに私は兄者という人間に恋焦がれている。
すらっとした長身に、端正な顔。表情は冷たいように見えるがそれは本人の取り繕いであり、本当の顔はとても表情豊かでそのギャップがまたいい。しかも趣味も多彩で話のネタをたくさん持つものだから、一緒にいて飽きる要素すら見つからない。
ーーーだからこそ、好色を示す相手が寄ってくるのだ。たとえそれが初対面の可愛い女性であろうとも。
「じゃあ彼女来るまででいいから。ダメ?」
「駄目、俺の彼女やきもちやきだからさ。」
「じゃあじゃあ、ここでこのまま話すのは?」
「駄目駄目、早く次行けよ。時間無駄だろ?」
否定的ではあるが、強く拒絶しない辺りがとても好感が持てる。駅前で待ち合わせたのは間違いだったか。兄者はもう選ぶ言葉がないみたいで、周りを見回す目がついに傍観していた私を見つけた。
すぐさま腕を軽く上げて私を呼び寄せると、何してんだよとナンパしてきた女性に向けていた声色とはすこし違う、低い声でそう言葉を投げた。ご機嫌を少し損ねたみたいだ。
苦笑いしながら近付くと、女性はそろそろと兄者から離れていき、私が兄者の拳にこつんと軽く頭を小突かれる頃には人混みに紛れて見えなくなってしまった。いて、と抗議の声を兄者に漏らすと、兄者は眉間にしわを寄せて駅前広場の時計台を目で指す。
「遅刻してないよ。時間ピッタリでしょ。」
「社会人として少し早めにくるのが常識だろうが。」
「何分前に来たの?」
「10分前。」
「さっきの人何人目?」
「3人目。」
対して鋭い怒気を孕んだ眼光に怖がるそぶりも見せずにそう問いかけると、兄者は淡々と答えながらコートに突っ込んでいた私の手を無理矢理抜き取り強引にその手を引いた。暖めていた手が冷たいさらりとした掌に包まれて鳥肌が立つ。今日は本当に寒い日だ。
「どこ行く?」
「ノープランかよ。」
「買い物したいだけー。」
街中をぶらついていると、チラチラと視線を感じる。勿論その先は私じゃなくて隣にいるこのお兄さんにだ。本人はそんな視線を気にすることもなく、店のショウウィンドウを見回しながらたまに私に立ち止まるように腕を引くのみ。こんなに格好いい彼氏をもって、最初こそは得意げになっていたけれど本人が気にしていないのだから、その勘違いの自己陶酔まがいの感情は萎み、今では少しは目線くらいやってあげればいいのに、とさえ思う。たとえ知らない人でも、好みの男性に目を合わせられれば一日ハッピーになること間違いない。