FEエコーズ夢

□秘密
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その日の夜の見張りはパイソンだった。
 野営地の端で暗い森を見ているなど面倒極まりない、が、仕事は仕事だ。
 

「ふぁ〜。」
 

盛大なあくびを一つすると『フォルスに怒られる。』と自分のなかに一瞬で顔が浮かんでしまった。まぁ、毎度そうして起こされているに等しい。
 

「はぁ…。」
 

眠気と幼馴染の顔と頭の中で戦いながらいること数刻。すっかり寝静まった野営地から出ていく人影が見えた。
 

「誰だよ、こんな時間に。」
 

脇に置いていたカンテラを持ち、人物を確かめようと歩き始めた。外に出るなら普通見張りに言う。
 近づいてわかったが二人だ。男と女。一瞬立ち止まって考える。お楽しみなら邪魔をするのは野暮だ。
 しかし、見ていると男のほうは足取りが重いし、女が来るのを拒んでいるようだった。
 

「なんなんだよ…。」
 

結局確かめるために二人に近づく。その途中で男がこちらに気づいて足早に森のなかに入って行ってしまった。
 

「え?なに?後ろめたいことでもあんの?」
 

困惑しながら立ち止まっている女に近づいた。
 

「なんだ。イリアじゃん。」
 

女の正体は同じ軍のイリア。声をかけるとびくっと肩をすくめてこちらを見た。
 

「パ、パイソン。いたの?」
 「見張り、俺だから。で、今の人誰?」
 「え、あ、え、その、ルカだよ。」
 「何しにこんなところに出てきたのさ。森に入っちゃって。」
 「え、えと…その」
 

明らかに挙動不審な態度をとるイリア。鎌をかけてみることにする。
 

「…泉に水浴びに行ったの?」
 「え、あ、うん!そう。」
 「それにあんたついていこうとしたの?」
 「え‼い、いや、あの…。」
 

そう言い訳するかを一生懸命考えているが、嘘は嘘。
 

「言っておくけど、泉があるのはここから反対だから。」
 「え⁉」
 

壊滅的に嘘の下手な人間だと呆れてしまう。
 

「どうかしたのか?ルカ?」
 「え、な、何でもないよ。」
 

ここまできてなんでもない、が通じるわけがない。まだどうしようかと悶えている辺り、ルカのところには行ってほしくなさそうではある。
 

「槍ついて歩くのがやっとらしい人に何でもないはないだろ。俺行ってくるわ。その間見張り交代してよ。」
 「だめ。やっぱり私が行くよ。」
 「イリアだって来るなって言われてるからここにいるんだろ?」
 「そうだけど…。」
 「男同士しか話せないこともありそうじゃん?行ってくるわ。」
 

カンテラをイリアに持たせて行こうとすると腕を掴まれた。必死に『行かないで。』と言い首を横に振るも、そんなことで言うことを聞くようなパイソンでもない。
 

「いい?秘密を守るならあんたみたいな人間より、俺みたいな奴が協力するほうがいいの。これ以上止めるなら、今の状況大将に報告しちゃうよ?」
 

ここまで言って渋々引き下がった。アルムに言われるよりいいと判断したのだろう。自分が嘘つくのが下手というのも自覚しているらしい。
 

「じゃ、ちょっと行ってくるから。」
 

不安そうなイリアを残して、パイソンは森の中へ入っていった。

 森は暗くてあまり入りたいとは思えない。こんなところにわざわざ来るのだからよほど理由がないと来ないだろう。泉も反対だ。
 

「はぁ、ルカー。」
 

一声かけると目に入る範囲で茂みが動いた。
 

「なんだ結構近いじゃん。」
 

しかし、足音は遠ざかってしまう。
 

「えぇー。なんで遠くに行っちゃうのさ。」
 

あとを追いかける。いるであろう木に向かって近づいていく。
 

「ルカ―」
 

いるであろう木の後ろから姿を確かめようとすると槍の穂先が一瞬で自分の目の前に現れた。
 

「どしたの?ルカらしくないじゃん。」
 「…それ、以上、近づかないでください。」
 

息も絶え絶えにして言うものだから異常が起きているのは分かる。
 

「辛いの?熱?」
 「いいから放って…、ください。」
 

今度は小さなうめき声も聞こえた。
 

「あ、そ。じゃ。」
 

自分に向けられた槍の柄を持つとそれを辿るように近づいた。
 

 「失礼しまーす。…と。」
 「パイソン。」
 

 ルカの姿に先ほどよりも強い衝撃を受けた。その動揺した一瞬で歯ぎしりをしながらパイソンに馬乗りになって地面に押さえつけた。
 

 「見てしまったからには…どうしましょうか?」
 「え?何?色々聞きたいんだけど。その、姿っていうの?この首絞めようとしてる腕とか、背中に生えてる片っぽだけの翼とか、目の下にあるかたそーな鱗とか?」
 「あまり言わないでいただけますか?私はこの醜い姿が大嫌いなんです。」
 「あー、ごめん。」
 

 あまり聞こえていないようで間髪入れずに槍がのど元に突き付けられた。
 

 「首の骨を折られるのと、槍で貫かれるの、どちらがお好みですか?」
 

 物騒な物言いに自分が窮地に立っていることを確認させられた。今自分を睨み付ける目は本気でやるときの目だった。
 

 「どっちも嫌だね。本気?」
 「えぇ。この姿はイリアしか知りません。それ以上広める気も、ありません。」
 「広める気がないならイリアに嘘つかせるのやめたら?無理だって。不審に思って確かめに来たら殺されかけるとかいい迷惑だよ。」
 「いままで来た人は、いません。パイソン。どうやら貴方が一番、最初のようですね。」
 「待ってよ。言う気もないし、戦友を本気で殺しにかかるくらい守りたい秘密なら死んでも言わない。それに俺も協力するよ?どう?イリアよりいざって時に頼りになると思うけど。」
 

迷っているのかパイソンの目を見たまま動かないルカに抵抗することもなく、言葉を待ち続けた。
 

「私の秘密を、守って、あなた、に、なんの得があると、言うのです。」
 「え、だって死にたくないもん。」
 

今でも今後も。と付け加えると、ルカは苦笑してパイソンの上から降りた。
 

「その通りでしたね。」
 

木の根元に背を預けると、荒い息のまま目をつむり胸を押さえるルカ。パイソンは起き上がると、ルカのほうを向いて今一度姿を見つめた。
 

「なんか、すごいね。呪い?」
 

竜のような翼によくよく見れば尾まで生えている。
 

「呪いではありません。私にとっては呪いのような物ですが…。明日にはすべてお話しします。夜、空けておいてください。」
 「その姿について?」
 「貴方は、口が堅いことも知っていますし、確かに、パイソンが知っていてくれたほうが、こちらも、なにかと都合がいいのです。」
 「今話せないの?」
 「すみません、今はこれを、押さえるのでいっぱいですので。余裕もありませんし。いつものことですから。イリアに、先に戻るように伝えてください。」
 「いいの?付いてなくて?」
 「見張りでしょう?こちらに来そうな方がいたら、通さないようにしていただければ。」
 「あっそ。確かにそっちのほうがよさそうだね。」 
 

パイソンは立ち上がると、腰につけていた飲み水だけルカの足元に置いた。
 

「じゃ、なんていうか、頑張って。」 
 「えぇ。」
 

ルカに背を向けて自分は見張りへと戻った。

 









「パイソン!」
 

戻るとイリアがまだ同じ場所に立っていた。
 

「先に寝てろだって。見張りありがと。」
 

カンテラを受け取り天幕に帰るように促すが、言葉が返ってきた。
 

「その…パイソンは、見たの?」
 

伏し目がちに言ってくるイリアにパイソンは素っ気なく答えた。
 

「見たよ。」
 「で、どう、思った?」
 「え?別に。人には言えないことってあるよね。あれはちょっとぶっ飛んでたけど。」
 「ルカのこと、嫌いになったりしない?いじめたりしない?」
 「は?するかっての。こっちのほうがいじめられてるんだぞ?脅迫だね、あれは。」
 いつもの通りに軽い口調でいうとイリアは安心したように息をついた。
 「ありがとう。」
 「そんなに感謝することはないでしょ。詳しいことは明日聞くことになってるから。俺は秘密は守るから。」
 「ありがとう、パイソン。」
 

目を潤ませて自分のことのように喜んでいるようだった。
 

「ま、あんただけだったら明らかに隠し通せないし。俺が助けてやるって言ったらあっさり。ほんとに下手だな。」
 「う、そ、それは…。しょうがないじゃん。」
 「ま、今後は嘘つくときは俺に聞くことだね。ほら、天幕まで送ってやるよ。同じ住人がいないからって泣いてんじゃないぞ。」
 「泣かないもん!待ってよ!。」
 

嘘をつくには下手すぎる。だから俺が助けてやるよ。
 明日、話を聞くと、その決意はさらに固まることとなった。













ルカの秘密。竜のような姿、それは触れたくない、触れたい秘密。

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