FEエコーズ夢
□初陣
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今日はルカと私にとって初陣だった。解放軍に参加してから一週間も経たない。私は義足であることも考慮され、後衛での回復を任された。戦地まで荷馬車で運ばれ着けば早速前線で怪我をした兵士たちを回復している。
「イリア、こいつもだ。頭を殴られてる!」
「はい!」
身を削り戦ってくれた兵士へ魔法を施し、また仲間同士で回復をしてさらにたくさんの人を回復できるように準備もした。
戦いが終わりを告げ戦いのなか動けなかったけが人も運ばれてきて衛生兵は誰もがばたばと動いていた。
「もう大丈夫です。でも、頭を打ってしまっているので一応このまま安静にしていてください。」
「あぁ。」
兵士を寝かせながらまた次の怪我人のもとに向かおうとした時だった。
前線のほうから槍で体を支えながら歩く赤い人影が見えた。
「ルカ…。」
歩みだそうとしたときそばにいた怪我人がうめき声をあげた。
「頭が痛みますか?」
行きたい気持ちを抑えて持ち場にいることにした。ルカのいたところには近くに他の衛星兵がいる。だから、私は私の解放軍としての仕事をしようと決めた。
一通りの治療が終わったころには近くにルカの姿を見つけることができなかった。
その日は日が落ちてしまったこともあり、少し進んだところで天幕を張ることとなった。
移動の最中も何かとやる荷馬車の上でやることがあり、ルカが一度も来ないことに気が付くことができなかった。
負傷者の手当てを他の人と変わり、天幕を張るのを手伝おうとしている時だった。
夜の闇の中、陣の外から歩いてくる数人の姿が目に入った。
「…え、ルカ?」
「イリア、ちょうどよかった。この人たちの手当てをお願いできますか?」
「うん、みなさん全く治療されてないじゃ…。」
「なにが治療兵だ、貴族め…。」
ルカの後ろにいた人が膝をついて腹を抑えた。
「彼は応急処置はしてあります。先にこの人を…。」
背におぶっていた人を見ると脈も弱く熱も出ていた。寝かせると同時に魔法をかける。他の数人も今まで治療されていなかったせいで菌が入ってしまっていたり、傷口が広がってしまったりしていた。治療の間ルカが空いている天幕を探してくれ、全員そこにいてもらうことにした。
「私、道具を持ってくるね。」
「はい、私も、クレーベに報告に…。」
「ルカ?ちょっといい?」
言葉が変なところで切れてしまっているのを疑い、額に手を当てる。
「あついわ。どこ怪我してるの?」
「処置はしています。」
「鎧を取ってて。その間に他の人呼んでくるから。」
早歩きで衛生兵の天幕に行き、先ほどの人たちの治療を頼むと自分もタオルを持ってルカのもとに帰った。
怪我を見始めると酷いものだった。体中に切り傷が付き、わき腹には何か所も刺さった跡があった。
「どうしてすぐに治してもらわなかったの?」
そう問いながら魔法をかけ始めた。
「私たちのいたところには、治療兵は貴族でした。元々平民には最低限の治療しかしない人らしく、私に気が付くと近づくこともせず、おかげで周りの人たちにも治療をしませんでした。彼らは私のせいで治療が受けられなかったのです。移動しようと思いましたが…、体が言うことをきかずにそのまま目を閉じていました。気が付けば周りは移動の支度をはじめていて、移動をはじめ、怪我を負っていた私たちはあっという間に引き離されましたよ。そして到着がさきほどになってしまった、と。そういったところです。」
言葉音はいつものようだけれど淡々と話す言葉には怒りを含め、拳も握りしめられていた。
「田舎貴族がお嫌いらしかったですよ、その方は。明日は皆さんに巻き込んでしまったことをお詫びしなければいけませんね。」
木にもたれて力なく笑う姿に胸が痛んだ。
「もう痛いところない?」
魔法で治療できるところは終わってしまった。
「えぇ。ありがとうございます。イリアは大丈夫ですか?」
「私はまだまだ元気だよ。」
ルカの頬に手を当てると先ほどより体温が上がってしまっているのがわかった。
「天幕、空いてるところがあるか聞いてくるね。」
「空いていませんよ。もうさっきの天幕で最後のようでしたから。負傷者がたくさん出てしまいましたからね。」
「え、でもルカだけでも天幕にいてもらわないと。あとは体力勝負なんだよ?」
「と言っても入るところがありませんから仕方ありません。」
その言葉にイリアも諦め、羽織るものだけ二枚持ってくることとなった。その道中野営地の中心から聞こえてくる笑い声が気になってふと見る。明るい天幕のなかに人影がみえる。その人たちは瓶を傾け、談笑しているようだった。
「…どうしてこうも違うのよ…。」
平民も然り、ルカのことを思うと悲しくなった。貴族たちからは蔑まれ、平民たちからは貴族というひとくくりで白い眼で見られ。この解放軍で彼ほどたくさんの人から遠ざけられている人はいないと思う。私はまだ平民だからいいものだ。
明るい火の光も冷たく思えてきてルカのもとへと向き直った。
木の根にもたれている彼はもう目を閉じて眠ってしまっている。
「お水飲んで欲しかったのに。」
一枚を地面に敷き、横にしてもう一枚を上にかける。天幕にいられなかった分をこれで補えると思わないけれど、少しはましになると思う。なるべく早く体に入ってしまった毒素を出してもらわなければならない。
ルカのそばで腰を下ろして、持ってきた水は脇に置いて膝を抱えた。今日は少し冷える。風が冷たかった。
苦し気に息をする彼の胸元のボタンを一つ外して、もう一度額に手を当てた。熱はどうも上がり続けているらしい。大事に至ることはないかもしれないけれど辛そうだった。
「…イリア…。これは貴方の毛布ですか?」
「起こしちゃった?使って。天幕みたいに風が減るわけじゃないけど。」
「いけません。地面に引くことはありませんから使ってください。」
「侮っちゃだめだよ。地面も冷えてるから敷いておかないと。」
「しかし…。」
「衛生兵のいうこと聞いて。私は大丈夫だから。お水飲む?」
カップを見せると小さく頷き少し上体をおこして飲ませてあげる。
「ありがとうございます。イリア、やはり寒いですから、一緒に入ってください。それなら私も使いますし、言うことはないでしょう?」
「やだ、ルカ、忘れたの?私が入ったら寝てる私は容赦なく貴方蹴っちゃうよ?」
「構いませんよ。風邪をひかれるほうが嫌です。」
「毛布奪っちゃうかもしれないからやめておく。今はあなた優先。さぁ、寝て。」
赤い髪をなでると眠かったせいもあり、反論し返す余裕もなく寝てしまった。
「早く良くなって。私はちょっとぐらいなんともないわ。」
手の平のぬくもりを感じながら私も目を閉じた。
「イリア。イリア。」
「ん?」
「朝です。拠点に帰りますよ。あなたも準備があるでしょう?」
寝ぼけた目で周りを見渡すと天幕を片付け始めていた。
「ほんとだ…。ルカ、体調は?」
「昨日よりずっといいですよ。」
顔をみてもまだ本調子とはいかなさそうではあるけれどましには見えた。見上げるときに方からパサリと何かが落ちた。
「毛布…。ルカ!かけたでしょ!」
「昨日目が覚めた時にやはり寒そうでしたので。」
「もう。本当に大丈夫?」
「えぇ。また拠点に帰ったら休ませていただきます。私はクレーベに報告があるので、先に失礼しますね。」
立掛けていた槍だけを持って歩いて行ってしまった。
言うこと聞かないんだから、と頭では思いつつ、気づかいの嬉しさも半分あって晴れやかな気分で自分も片付けに向かった。
初めての戦い、気づかい。