FEエコーズ夢
□旅立ち
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「ルカ、解放軍に参加しろ。」
「…わかりました。」
腹違いの兄から言われた言葉。もう冷え切った私たちの仲はなにも示さない。
「二度と戻るな。それと、小娘も連れていけ、邪魔だ。」
「彼女は戦えません。連れていくなんてできないことは貴方にもお分かりでしょう。」
「衛生兵の仕事でもさせろ。なんでもいい、とりあえずこの領地から出ていけ。」
それきり会話は続かず、私は兄の言う通りに解放軍に入るため、否、出ていくための旅支度を整えるため部屋へと戻った。
質素な部屋。貴族とはいえ辺境の中流貴族、といっても貴族は貴族。難なく暮らせる、それだけで部屋はそれを表しているかのように色のない簡素なもの。
中に入り隣の部屋へ通じる扉をルカは軽く叩いた。
「ルカ、お兄さんとお話し終わったの?」
中から出てきた女性はイリア。
幼い頃に出会い孤児だったこともあってこの家に住んでいる。
薄い茶色の髪ときれいに灯るオレンジの瞳。小柄な体格もあり、ひ弱そうな印象を持たせる優しい少女だ。
「えぇ。解放軍に入れ、と。」
「戦争?危ないんじゃ…。」
「兄からの命令ですからね。邪魔ものを他所へやりたいのでしょう。それと、イリア、貴方も出ていくように…と。解放軍にはとても連れてはいけませんし、どこか奉公できるところを当たってはみますが…。」
「ルカが行くなら私だって解放軍に行くわ。」
「貴方になにができるのですか。その足です。」
ルカが目線を落とす先には何もない、しかし本来ならばイリアの足があるべき場所だった。幼い頃に失った右足。
「足は義足使えば大丈夫だし私、回復の魔法は使えるわ、こんなでも、回復ができれば、きっと役に立てる!」
「行軍についていけなかったらおいて行かれるだけです。戦場では誰もが自分のことでいっぱいです。私もあなたのことを守れるかわかりません。」
「でも!私は貴方についていく!私は…、私はルカのそばにいたいの。解放軍に入ることが認められなかったら諦めるから!お願い。あなたといられる可能性を試させて。」
ルカの頭ではこうなることはわかっていた。決めたら引かない、ルカ自身もそういうところがあるためこうなると長い。しかし今は時間もある。明日の早朝には発たなければならない。
それにルカも危険とはわかってはいながらも離れたくはないのが本心だ。一息ついて告げた。
「では、ひとまず解放軍へ行きましょう。だめだと言われたらあなたはほかの場所へ行ってもらいます。いいですね?」
イリアは力強く頷き、二人は支度を始めた。
翌朝、日が昇る前に数人の世話役に見送られて二人は屋敷を発つこととなった。
「ルカ様、お元気で。ご無事をお祈りしています。」
家族からもらえたのは移動のための馬一頭にわずかな銀貨。王都に行けるだけの金ではあり、
そのあとはルカの所持金で十分に生きていける。それに解放軍では給金も出るので心配することもない。
進み始めた道でルカは小さくつぶやいた。
「もうここに戻ることはないのでしょうね…。」
「寂しい?」
相乗りする馬の上で身をよじって顔を見上げる。
「寂しい…ではないですね。これでもう会わなくていいと思うと清々しますから。」
「でも心からっていうわけでもなさそうだよ?」
「さぁ、どうでしょう。走らせますよ、しっかり前を向いて捕まっていてください。」
手綱を引き、王都へむけて馬を走らせた。
解放軍はソフィア城を本拠地としてドゼーからの侵略に備えていた。
ソフィア城下へ着いたのは馬を走らせ続けて3日ほど。昼を少し回ったころに解放軍リーダーのクレーベへの面会が行われた。
「やぁ、君がルカとそちらの方がイリアかな。私はクレーベ、よろしく頼む。」
「はい、クレーベ卿。ルカと申します。このたびはお時間を割いていただきありがとうございます。」
「硬くならなくていいさ。ここでは貴族も平民も位はない。そういう方針でね。」
顔をあげてくれと言われて二人はゆっくりと顔をあげる。
「ありがとうございます。ですが私は中流貴族、イリアも貴族ではありません。クレーベ卿を前に…。」
「ルカ、私のことはクレーベと呼んでくれ。イリア、君もだ。そう呼んでくれれば解放軍には見極めもなしで入ってもらって構わないよ。特にルカ、君は腕がたちそうだ。」
「クレーベ卿…そんな簡単に…」
ルカの言葉を遮ってイリアが前にでて頭を下げた。
「クレーベ、私、力はなくて回復の魔法しか使えません、足も片足は義足です、けれども頑張って働くから…私をここにおいてください!お願いします!」
必死な姿にクレーベは微笑みをもらした。
「あぁ、もちろんだ。回復のできる人間が解放軍には少なくてな、とても助かるよ。」
否と言わなかったことに間入れずルカが補足を足した。
「クレーベ卿、彼女は義足です行軍についていけるかもわかりません。そんな人間がいても邪魔になるだけではないのですか?」
ルカの言葉にイリアはチクリと心に痛みを受けた。クレーベも意外そうな顔をして何を言うか迷っていたがすぐに口を開いた。
「ルカ、君は良い指揮が取れそうな人だね。軍に何が必要で切り捨てるべきかすぐに決めることのできる人間だ。この軍のことを考えて言ってくれているのかもしれないが、回復のできる人は貴重だしかし今はドゼーの軍にほとんどを持っていかれてしまった。彼女が義足であろうとも私たちには願ったりかなったりなんだ。行軍のことは気にしなくても馬や荷車に乗ってもらえれば大丈夫だ。だめかな?ルカ。」
話を聞いている間も固い表情は崩れずそのまま『いいえ。』と小さく答えた。
「イリアはクレーベと呼んでくれたが…呼ぶ気はなさそうだね。」
「普通に見極めを通って入らせていただけると嬉しいのですが。」
「腕に自信があるようだね。じゃあ始めようか。」
三人は兵士たちの集まる広場へと歩みを進める。
その途中でクレーベの妹であるクレアが三人に声をかけた。
「お兄様、そちらの方たちは?新しい仲間ですの?」
「あぁ、その通りだ。ルカとイリア。二人とも、紹介するよ私の妹のクレアだ。」
「はじめまして、クレア様。」
「まぁ、いいのですわよ。クレアと呼んでくださいまし。」
「ルカが私のことをクレーベと呼んでくれなくてな。これから見極めだ。」
「まぁ、わたくしも参りますわ。」
クレアもともに広場へと入った。
広場では数組の兵士が鍛錬をしていた。クレーベが壁際で武器の手入れをしていた兵士に声をかけると応じ、二人は模擬戦用の槍を持って位置についた。
「どちらかが負けを認めるか、私が止めというまで続けてもらう。準備はいいか!」
「えぇ、いけますよ。」
槍を右手に構え右足も後ろへ下げた。
「では、はじめ!」
声がかかるとともに相手は走り出す。ルカは動かないままその動きを注視し、右足に力を入れると槍を引き、振り下ろしてくる槍をしたから振り上げると手ごと宙に持っていかれた相手の空いたわき腹に容赦なく槍を叩きつけた。完全に入ってしまった攻撃にわき腹を抑えて崩れる。しかしルカは攻撃を休めず、背後に回り込むと首根を抑え地面に伏せさせ槍の穂先を突き立てた。
「そこまで!」
クレーベの止めが入り手をどけて立ち上がる。
「大丈夫でしょうか?お相手してくださりありがとうございました。」
手を差し伸べて起きるのを手伝いあまりにも容赦なく攻撃をしたため強く強打したところは
イリアが回復魔法をどれほど使えるかを見るついでに治癒し、兵士は立ち去って行った。
「お見事だ、ルカ。解放軍はぜひともきみを受け入れさせてもらうよ。私をクレーベと呼んだらね。」
「わたくしもですわよ!」
ルカはため息をつき二人を見ると
「そのためにわざわざ見にいらしたのですか。えぇ、分かりました。クレーベ、クレア、これからよろしくお願いします。」
その言葉を聞くとクレーベは満足げな笑みを浮かべた。
「さて、これからは仕事に関してだが、イリアは衛生兵として、ルカ、君が得意なのは?」
「そうですね、打たれ強いのが私の強みと言いましょうか、前衛の歩兵を希望します。」
「構わないが…最も危険だぞ。いいのか?」
「誰かがやらねばならないことです。私で良ければやらせていただきます。」
「…そうか。では頼む。君の活躍を期待しているよ。」
そしてルカたちはクレーベたちと別れ、ほかの兵に兵舎を案内してもらうこととなった。
家を出てから解放軍に入るまでの物語。