流石に客人の増えた空条家に二泊もお世話になるのは憚られたのだけど、気にしなくていいのよ、というホリィさんの厚意に甘えさせていただいた。 だからせめて何かお手伝いをせねばと、早起きをしてホリィさんのいる台所へと向かう。 「おはようございます。ホリィさん」 「あら、紗雪ちゃん。早いのね」 「何か手伝えればと思って」 「ゆっくりしていてくれていいのに。でも嬉しい、ありがとう」 「お料理上手のホリィさんから少しでもそのスキルを学べたらなと思っているんで。何でも言って下さい」 「娘がいたらこんな感じなのかしらね。いつでもお嫁に来てくれて構わないのよ」 「それじゃあ承太郎へのプロポーズの言葉を考えとかなきゃですね」 などと、いつもの様に他愛ない話をしてたのだけど。 「ホリィさん?」 隣に立つホリィさんの身体がこちらに傾いてきて、咄嗟に支える。 「ごめんなさい。ちょっと、眩暈がして」 触れるホリィさんの身体は熱い。 いつもの笑顔を向けてくれるけど、その顔色はすこぶる悪かった。 「少し休んで下さい。後の事は私がやりますから」 「ありがとう。でも、だいじょ う ―― 「ホリィさん!」 話してる途中でホリィさんが意識を失い、預けられた彼女の身体を負荷をかけないようにその場に一度横たえる。 呼吸と脈はあるけど。 手を当てた額はとても熱い。 怪我への対応はある程度心得ている私だけど、病気に関してはからきしだ。 どうしようと一人慌てふためいていると。 「何かあったのか?」 「アヴドゥルさん!ホリィさんが大変なんです。熱があって、意識もなくて」 「どれ、私が診よう」 「お願いします」 丁度通りかかったのはアヴドゥルさんで。 私と違って落ち着いた様子でホリィさんの症状を確認していく。 どうしよう、取り合えず布団を敷いて氷枕を用意して。 あ、でも救急車を呼んだ方がいいのかもしれない。 とにかく今はアヴドゥルさんの判断を待とう。 うん、そうしよう。 「これは ――」 アヴドゥルさんは何かに気が付き、ホリィさんの背中を見て顔をしかめた。 服で隠されたその背中は、蔦のような植物でびっしりと埋め尽くされていたのだ。 「―― スタンドだ」 「まさかまた、ディオの刺客ですか?」 「いや、これはホリィさん自身のスタンド。どうやら自身のスタンドが害になってしまっている様だ」 「大丈夫、なんですよね?」 スタンドは自身の生命エネルギーがつくり出したものだというのに。 他人のスタンドならともかく、自身のスタンドが本体である身体に害を及ぼすなんて。 「気休めを言っても仕方がないから正直に言わせてもらうが、状況は非常にまずい。スタンドは誰にでも使いこなせる訳じゃあないんだ。ましてやホリィさんのスタンドはディオによって無理やり目覚めさせられたもの。このままでは、とり殺されてしまうかもしれない」 「そんな、」 頭の中が真っ白で呆然としていると、騒ぎを聞きつけたのか承太郎とジョセフさんもいつの間にか居合わせていて。 「わ、わしの最も恐れていた事が起こりよった。抵抗力がないんじゃあないかと思っておった。ディオの魂からの呪縛に逆らえる力がないんじゃあないかと思っておったんじゃ」 「――― 言え、対策を」 「一つ、ディオを見つけ出す事だ。ディオを殺してこの呪縛を解くのだ。それしかない」 刺客を返り討ちにするだけでは足りない。 何処にいるのかもわからない男を見つけ出し、殺さなければならないなんて。 途方がないにも程がある。 「紗雪、お前のスタンドでお袋のスタンドを抑える事は可能か?」 「え?」 「刑務所でお前が言ったんだ。鎮静、それがお前のスタンドの能力だ、と」 「!やってみる」 レミッションスケイル。 呼びかければ一羽の蝶が出現し、ヒラヒラとホリィさんへと舞い降りる。 皆が見守る中、数拍の間を置き。 「――― んっ、―― あら、パパ?それに承太郎も。みんな揃ってどうしたの?」 「ホリィ!良かった。お前は倒れたんじゃ。びっくりしたぞ」 「そうなの?本当、私ったらどうしちゃったのかしら」 「少し横になって休むといい。待ってろ、今準備してくるからな」 「そうね、そうさせてもらうわ」 体調が万全に戻るとまではいかないが、それまで意識のなかったホリィさんが目を覚ます。 とりあえずうまくいったみたいで良かった。 けどまだ気を抜く訳にはいかない。 ホリィさんへの侵食を食い止められる位までスタンドの力を抑えつつも、あまり抑えすぎてはホリィさん自身の体力まで削りかねないので、力の調整が思っていた以上に難しいのだ。 「大丈夫か?」 「感覚掴むまでは手こずりそうだけど、大丈夫。今はホリィさんについててあげて」 「無理させて悪いな」 「何言ってるの。ホリィさんの為ならこれくらいどうって事ないから気にしないで」 非力な私の数少ない出来る事なのだ。 私は私にできる最善を全うしてみせようではないか。 . |