要塞都市とはよく言ったものだ。 裏武闘殺陣の時もすごいと思ったけど、今回は更にその上をいくのではないかと思う。 SODOMと呼ばれるこの地の何処かに天堂地獄は身を隠し、柳が捕らえられている。 黒ずんだ湖の中にそびえ立つタワー。 広大な土地の上には幾つものドームやら施設やらが設置されていて。 そこには当然、裏麗の戦闘員が身を潜め、侵入者を待ち構えている事だろう。 難なく通過できた入り口付近には、天堂地獄の分身と思しき幾つもの残骸が転がっていた。 おそらく先にたどり着いた火影の面々が討ち倒していったのだと思われる。 それにしても、夥しい数だった。 それはつまり天堂地獄が今日に至るまでに十分な力を蓄えたという事を意味している。 一体どれだけの人間が犠牲になったというのだろうか。 そんな事を思い返しながら進んでいると、前を行く紅麗とジョーカーさんが目配せをする。 進む先にある複数の気配を感知しての事だ。 「火影以外にも、誰か来ているのかもしれないね」 「誰がいようと関係ない。邪魔な者は排除する、それだけだ」 「第一優先はあくまで天堂地獄だよ。そこのところをくれぐれも忘れないようにね」 誰かれ構わず喧嘩をふっかけそうな紅麗の物言いに釘をさす。 私の中では、天堂地獄破壊を目的とする人達は仲間の認識だけど。 多分紅麗はそうじゃない。 色んな因縁があるのはわかるけど。 こんな時位、仲良くとまでは言わないけど、協力し合えばいいのに。 陽炎と情報を共有して、秘密裏に日程を合わせる事に成功したけれど。 その判断がどうか凶と出ませんようにと願うばかりだ。 気をとりなおして。 進行方向の気配を探る。 全部で五、いや四人? 動きからして一対多数の構図かな。 けど優勢なのは単体で動いてる方だ。 いつでも対処がきくように、警戒しつつ、音を立てぬように距離を詰めていけば。 「向こう!いっぱいいる感じる!でも違う!こいつ一人!出てこい!お前誰!お前敵?味方?」 どうやら敵もこちらに気がついたようだ。 風貌から察するに、裏麗、四死天の門都で間違いないだろう。 「私が行く。お前達は手出し無用だ」 スッと流れるような所作でもって紅麗は相手に近寄り、喚きたてる敵を一撃のもと、圧倒した。 光蘭の配下の中でも上位の戦闘能力を有する者の筈だ。 成程、確かに。 紅麗の一撃を受けてなお、立ち向かいあれだけ動けるのだから、相当の実力者といえよう。 そっと茂みから顔を出して戦況をうかがえば、紅麗と門都が対峙しており。 少し離れたところにいるのは、最澄さんだ。 それに麗(魔)の人達もいる。 今まで戦ってたのは彼等だったらしい。 「ほう、お前今までかなりの数の人間を殺しているな。見えるよ。お前の周りにお前が殺した人間達の怨念が見える。まぁ私も人の事を言えないがね。見せてやろう。死霊を炎で呪ってな」 紅麗の背より燃えいずる翼。 宣言通りに、炎はさ迷う霊魂の姿を浮かび上がらせていく。 門都も相当腕に自信があるようだけど、今回ばかりは相手が悪い。 成す術なく炎に焼かれ、勝敗は呆気なく決した。 「―― さて、次は貴様達の番だ」 「ちょっと待って、その第二回戦は認められないよ。さっきも言ったでしょう?天堂地獄が最優先だと」 「了承した覚えはない」 新たに標的を定め、今にも攻撃しかねない紅麗と最澄さんの間に立ちはだかり待ったをかける。 「楓さん?貴方も来ていたんですね」 「お久しぶりです、最澄さん。それから餓紗喰さんに火車丸さんに月白さんも。火影からの要請で応援に駆けつけてくれたんですよね?ありがとうございます」 「いいえ、そんな。烈火さん達には大会中もお世話になりましたし。それに、友人の危機とあらば駆けつけない訳にはいきませんから」 この辺のところは火影の人望の成せる業だな。 「楓、邪魔だ。手出しは無用と言っただろう」 「柳を助ける為に駆けつけてくれた人達を殺させる訳にはいかない。どうしても退かないっていうなら、私諸とも焼き尽くしなさい」 断固として動かない、と。 間に立ったまま紅麗を見据えれば。 「まぁまぁ、お二人ともその辺で。その他大勢の為に仲違いするなんて、馬鹿らしいやないですか。こういうんはほっとくに限る。紅麗さんがその炎使うんは、他にいるんとちゃいますか?」 見かねたジョーカーさんが取りなしてくれる。 二人がかりの説得のかいあってか。 はたまた興が削がれただけか。 元よりどうしても戦わなければならない相手という訳ではないから、案外あっさりと紅麗は矛をおさめてくれた。 背を向けた紅麗にバレないようにジョーカーさんに感謝の意を示し、安堵で胸を撫で下ろす。 それから、突然の展開続きで未だ呆然と立ち尽くす面々に向き直った。 「楓さん、あなたは一体」 「紅麗と一緒に行動してはいるけど、此処にいる理由は君達と同じ、友人を助けるためだよ」 「楓さんも、この先に進むんですよね。どうかお気をつけて」 「ありがとう。最澄さん達もお気をつけて」 此処に居合わせたのは最澄さん達だけではなく、他にも火影のために駆けつけてくれた仲間がいるのだろう。 危険な目にあわせてしまうのは忍びないが、戦力が増えるのは正直ありがたい。 最後に一礼して、さっさと先を行ってしまう紅麗の背中を追いかけた。 . |