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□決着のその先
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力が流れ込んでくるのを感じる。
それは優しく温かな光の様な ――



「――――― 、」
「気が付きましたか?」



不意に届いた声は覚えのあるものだった。
金色の髪の少年、ジョルノ・ジョヴァーナだ。

心臓がドキリと震える。
というのも、彼が黒を基調とした衣服を身に纏っているせいだ。

何が真実で何が現実だったのか。
判断がつけられない。

これは謁見したあの時の続き?
それとも、ローマでのやり取りの続き?



「みんなは、無事、ですよね?」



どうか後者であってくれ、という願いを込めて問いかける。



「みんなというのがリゾット・ネエロ率いるチームの五人を指しているのなら、無事ですよ。彼等には新たな組織の礎を築く為に日々尽力してもらっていますから、今は此処にいませんが」
「――― そっか。無事なら良かった」



返ってきた答えを聞いて心底安堵した。
つまりこれはローマでのやり取りの続きという事でいいらしい。

コロッセオであの後何が起こったのかはわからないけど、彼等が無事ならそれ以上を望む事はなかった。



「一か月も生死の境をさ迷っていたというのに仲間の心配ですか。本当に彼らの事が大切なんですね」
「―― 一か月、ですか。そんなに経っていたんですね」
「君達の追っていたボスは僕があの矢を使って倒しました」
「そう、ですか ―― 」



また肝心なところで私は役に立てなかったという事か。
元より戦闘に加われる様な力は持ち合わせていないけど。
面目ないにも程がある。



「あの彼等を狼狽えさせる事が出来るのは君位のものでしょうね。みんな心配している様でしたよ」
「そう簡単に動じる人達じゃありませんよ、彼等は。何にせよ心配をかけてしまったのは事実だし、もう大丈夫だよって事は伝えなくちゃ」



送信しようとして、違和感に気づく。



「――― っあれ? ―― 回線が、ない?」
「やれやれ、生命エネルギーが枯渇して死にかけていた人が今のその状態でスタンド能力を使える訳がないでしょう。彼等には僕の方から伝えておきますよ」
「っ、すみません、お願いします。―― というか、今更ですが此処は何処ですか?そもそも何でジョヴァーナさん
「ジョルノで構いませんよ。みんなそう呼びます」
「えっと、じゃあ ―― ジョルノは此処に?」
「此処が僕の家だからです。あのままでは君は生命エネルギーを奪われ尽くされ死を待つのみだった。それを阻止する手段を持つのが僕のゴールド・エクスペリエンスだけだったので此処に運んだんです。生命エネルギーを定期的に補給する必要がありましたからね」



詳細はよくわからないが、ジョルノのおかげで私は一命を取り留めたという事は理解できた。



「ありがとうございます、助けて下さって」
「いいえ。むしろお礼を言うのは僕の方です」
「お礼をされるような事、した覚えがないんだけど」
「矢をスタンドに取り込んだからこそ、君が何をしたのか、君の身に何が起こったのかを僕は理解しています」



キョトンとする私にジョルノは続ける。



「君が自ら捕まり謁見したあの時、回線を繋いだ亀の中にはあの矢が保管されていたんです。おそらくその時に君のスタンドが矢に触れたんでしょう。そして矢は君の思いに応え、時間を巻き戻した」
「そんな事が、」
「起こり得る訳がない?けれどそれが事実です。結果、未来から届いたメッセージを受け、君は運命を切り替えてみせた」



その種明かしは俄には信じられないような内容ではあったけど、どこかで納得してしまっている自分もいた。
未来の自分からのメッセージ、その仮説はどうやら間違ってはいなかったらしい。



「ですが、矢は未知の力を有してはいても、それ単体では何も発揮する事はない。つまり時を巻き戻すという現象は君から引き出されたという事です。コロッセオで矢が君を狙ったのは、起こした現象への対価を徴収する為だった」
「そんな大それた力と釣り合う対価を私に支払える筈もなく、見事に破産したって訳ですか」
「ええ。その認識で間違いないですよ」
「―― ご迷惑をおかけしました」
「意図した事ではなかったとしても、君の行動が犠牲を減らしたのは事実だ。おかげで失われずに済んだ命も少なくない。特にローマでの一件は、一般人の犠牲を最小限に抑える事が出来た。――― ルナ・ミエーレ、この組織を新たに統べる者として感謝します。そしてこれからも組織を、この地を、より良いものとする為に尽力してくれる事を願うよ」
「―― 私が動く理由はただ一つです、大切な人達を守りたい。それを貴方が害さないというのであれば、私は協力を惜しみません。微力ながら貴方が成さんと目指す未来の為に、お力添えする所存です」



不意に組織の長として態度を改めたジョルノに居住まいを正し、率直な今の自分の正直な気持ちを伝える。

きっと彼は私達を裏切らない。
まだ十代半ばの少年だといのに、そう思わせる何かが彼にはあった。





そして、時間は緩やかに流れ。

意識は戻ったもののまだ本調子ではない私は引き続き療養生活が続いていた。
新体制を築く為に忙しくしている皆には申し訳なく思うけれど、無理して足を引っ張られてはかなわないと言われているので今は大人しく体力回復に努めている。



「リゾット、」
「すまないな。見舞いに来るのが遅くなってしまった」
「そんなことないよ。忙しくしてるのは聞いてるから。今だって、随分無理して来てくれたんじゃないの?」
「このところ立て込んではいたが、無理はしていない」
「ならいいけど。会えて嬉しいよ、来てくれてありがとう」



ここぞとばかりにこき使いやがって!と言っていたのはギアッチョだったか。
それでいて的確に仕事振って来るあたりが抜け目なくてムカつくんだよな、みたいな話をしたのは記憶に新しい。



「それと、ごめんなさい。肝心なところで役に立てなくて」
「ジョルノから概要は聞いている。謝る必要が何処にあるんだ?」
「コロッセオの事もだけど、それだけじゃなくて。―― ちゃんと打ち明けて初めから動いていたら、」



ホルマジオとイルーゾォは死なずに済んだのかもしれない。



「ルナ。それをお前が自身の過ちと感じているのなら、その事実を気にするなとは言わない。おそらく一生お前はその事を背負い続けるんだろう」
「そうだね、そのつもりだよ」
「そしてそれは俺も同じだ。生きていく上で後悔を持たない人間はいない。中には取り返しのつかない様な悔いもある、こんな稼業に身を置いているのなら特にな。だが、その十字架をただ嘆く為だけの理由にしてしまうのか、同じ過ちを繰り返さない為の教訓とするのかは当人次第だ」
「――― うん」
「その重みに耐えきれなくなりそうな時は俺達を頼ればいい。独りじゃなければ支え合えるだろう」
「ありがとう、リゾット」



リゾットもまた、今まで多くのものを背負ってきた人だ。
そんな彼の言葉だからこそ、余計に心に染み入るものがある。



「お前が本調子に戻ったら、墓参りに行くか。あの時はちゃんと弔ってやれる様な状況じゃなかったからな。俺達の手でボスを葬る事こそかなわなかったが、この結果を報告してやらない訳にはいかないだろう」
「なら一刻も早く体力回復に努めなきゃだな。早くみんなのいるアジトにも戻りたいし」



事の顛末の他にも色々と、彼等には伝えたい事がある。

一つの戦いが終わり、新たな戦いがまた始まるのだろう。
この先も困難は待ち受けているだろうし、後悔するような出来事にぶつかる事もあるのかもしれない。

それでも、逃げずに受け止めて前を見よう。
いつかまた彼らに会った時に、胸を張って自身の生き様を語らえるように。







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