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□実行犯に厳罰を
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漁港に面する村は変わらずカビの脅威にさらされ、その村の住人が一人、また一人と訳の分からぬまま息絶えていた。



「な、なんだ、お前らは!邪魔するってんならよぉ、お前らから殺すぞ!」
「これだからアホは困るぜ。どっちが狩られる側なのかってのをまるで理解してやがらない」
「お前は此処から先には行かせねぇ、観念するんだな」



車に乗り逃げたブチャラティ達を追おうとしたセッコの行く手を阻むのはギアッチョとペッシの二人だ。



「二対一だからって調子に乗ってんじゃねぇ!追い詰められてるのはお前らの方なんだぜ!既にお前らの足場は俺のオアシスで泥と化した!!」



セッコの言葉の通り、二人の足は泥と化した地面に沈みのみこまれている。
しかしその表情に動揺はなく、逃げようとする素振りすら見せない。



「知ってるか?低温世界の中ではどんな生命も活動を停止する。それはカビだって例外じゃあないんだぜ」



一瞬にして辺り一面が凍り付く。
今度その場に足を取られたのはセッコの方だった。
躊躇なくギアッチョが下方に居るセッコへと迫る。
その身体にカビが繁殖する事はない。



「一対一のやり合いなら、」



凄まじい威力でセッコの拳がギアッチョ目がけて叩き込まれるも、



「うぐああぁあぁぁあっ!」
「この氷塊にヒビを入れるたあ、大した威力じゃねえか。左腕も犠牲にすりゃあ、欠けさす事くらい出来るかもしれねぇぜ」
「くそっ!コケにしやがってよおぉお!」
「おいおいおい、地中に逃げても無駄だぜ。なぁ、ペッシ」
「ビーチ・ボーイ!!」



その拳が砕け、たまらず地面の氷を割りセッコは地中に潜り身をひそめる。
しかし追撃の手が止まる事はない。
ペッシの放った釣り針がセッコの傷ついた右腕を捕らえ、地中から釣り上げる。



「何だ、これは!くそっ、この!このっ!!」
「俺のビーチ・ボーイの糸はよぉ、切断はできねぇ。受けた衝撃はそのまま返るからだ。既に糸はお前の右腕に深く食い込んでいるんだぜ。つまりその衝撃は全部お前に返っていくっ!」
「ぐぎゃああぁあぁぁ!」



糸を断ち切ろうと繰り出された攻撃の全てがセッコに返っていく。
畳み掛ける様に、ギアッチョのホワイト・アルバムがセッコの首から下を氷漬けにした。



「随分と俺達相手に舐めたマネしてくれたなぁ」
「チョコ、ラータ――」
「心の中で思ったなら、その時既に行動は終わっているんだ」

「「お前は俺達がブッ殺すっ!!」」



ペッシの釣り針がセッコの喉を破り、凍ったその身体はギアッチョによって砕き割られたのだった。





セッコがブチャラティ達の死を撮影して戻るのを心待ちにしていたチョコラータは、丘の上を走る車の存在に気づいた。
慌ててセッコと連絡をとろうとするも、一向に繋がらない。

セッコはあまり賢くはないが、その能力は強力でありグリーン・ティの力と組み合わせれば向かうところ敵なしといっていいだろう。
だから殺られたとは思えないが、標的が分散し一方を取り逃がした可能性は考えられた。




「チッ、此処は俺が追うしかあるまい。セッコめ、後で説教だな」



此処へ来るために乗ってきたヘリコプターの停留場所まで足を運ぶ。
操縦席につき、今正に起動させようとしたタイミングで、ガシリと横から首を掴まれる感覚に襲われた。

誰もそこにはいない筈なのに、確かに感触はあり強い力が込められている。
と同時に、自身の身に起きた異変をも感じ取った。



「―― な、んだ。――― これは?」



力が抜ける。
発された声もしわがれ。
首を掴んでいる何かに触れようとした両の手の筋力が急激に落ち、皮膚は弛み、なおかつ皺が刻まれている事に気づく。



「よう、チョコラータ。どうだ、自分が老人になった気分は?」
「何者だ、貴様っ!」
「お前には色々と世話になったからよ。何でもお前昔は老人相手に色んな実験をしてたみたいじゃあねえか。そんなに年寄りの事を知りたいってんなら、手っ取り早くお前自身をその老人に変えてやろうと思ってな」



メタリカで姿を眩ませていたプロシュートの姿があらわになる。
首を掴む手はそのまま。
やせ細ったその首は、プロシュートが力を加えれば簡単に折れてしまいそうだ。



「二年前、お前が生きたまま細かく切り刻んで殺した男の事を覚えているか?」



そして姿をあらわにしたのはプロシュートだけではない。



「お前は、暗殺チームの――」
「ギャングなんてものに所属している以上、死は常に隣合わせだ。特に暗殺なんてものを請け負う俺達はその覚悟は皆持ち合わせている。遊びじゃないし、仲良しごっこでもないんだからな。裏切りが露見した以上制裁は仕方のない事だ」



チョコラータの背後にいるのはリゾットだった。



「だが、そうは言っても仕方がないでは片づけられない事もある。共に仕事をしてきた仲間だ。友達の様な馴れ合いはなくとも、互いに一定の敬意を持って接してきた、な。そんな仲間の尊厳を踏みにじる様なマネをされて黙っていられる筈がないと思わないか?」
「ぐああっああぁあぁあぁぁ!」




言うと同時に、チョコラータの足先から順に鋭い切っ先の鉄杙が体内から皮膚を突き破り出現する。
手足から始まり胴へ、大きさもまばらな鉄杙は際限なく生え、と同時に宿主に痛烈な痛みをもたらした。



「「 dormi per sempre (永久に眠れ)」」



ポキリと骨が折れ、杭がチョコラータの心臓を貫く。
時を同じくして、ばらまかれたカビの脅威はローマから消え去ったのだった。






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