日の当たらない館での生活には馴染める気がしない。 いや、馴染みたいとも思わないけど。 今日も祖母から伝え聞いた話を語り聞かせるべくディオの部屋へと赴いた訳だが、この男は手にした書物から目を離さない。 それでも話には耳を傾けていて、たまに話した内容についての的確な問いを投げかけてくる。 大体がいつもそんなかたちで始まって終わるのだが、今日は少しばかり勝手が違った。 「!―― 紗雪。此方に来い」 「?何ですか、急に」 「いいから早くしろ。もっと近くにだ」 「―― ?」 パタンと読んでいた本を閉じ、不意にディオが立ち上がる。 今までにない行動パターンに驚いていると、語りを中断させ自分の元へ来いという。 訳の分からぬままに言う通りにすれば、まぁこの辺りでいいだろう、とディオがニヤリと笑みを浮かべた。 正直、嫌な予感しかしない。 「さっきから一体何なんですか?話を聞く気がないのなら私は自室に戻りま―― んっ」 その感覚に則り、この場から逃げようと行動に移そうとした矢先。 グイッと更に引き寄せられるや否や、口を噛みつかれ思考がフリーズする。 口内に入り込んだディオの舌が、上顎をペロリと這い、最後に唇を甘く食まれたところで、噛みつかれたのではなくキスされたんだと理解した。 「―― っ、いきなり何なんですかっ!?」 「いい加減覗き視られるのも鬱陶しかったんでな」 混乱させるだけさせておいて、何事も無かったかのように所定の位置に戻り読書を再開するディオを睨み付けるもまるで効果はなく。 説明は得られそうにないので意味不明な彼の言動の意図を考える。 「―――― !もしかして、念写?」 「ようやく思い当たったか」 「いや、でもそれで何で私はキスされなきゃならなかったんですか?」 「細やかな嫌がらせだ。奴等への、な」 「―― また、随分と低俗なまねをするんですね」 「他者を盗み見ようとする連中にはお誂え向きだろう。そんなに視たいのなら、見せつけてやろうと思ってな」 「もしかして、初めに顔を合わせた時に首に噛みついてきたのって ――」 「私は無駄な事はしない主義だ」 「最悪」 「そう褒めるな」 「褒めてません。本当に、こっちはいい迷惑ですよ。それに、この程度の事で彼等は動揺なんてしませんよ」 「それはもっと過激な行為をして欲しいという申し出か?」 「全然違います。とにかく、こういうのは金輪際止めて下さい。用も済んだ様なので失礼します」 バタンと勢いよく扉をしめて退室し、口元をゴシゴシと袖で拭う。 悔しさと怒りが込み上げてくるが、犬に噛まれたと思って忘れよう、と言い聞かす。 犬に例えるには大分獰猛が過ぎる気もするけれど。 . |