あの戦いの終焉と共に、私もまた長い眠りから目を覚ました。 この二年間の全ての出来事は、晋助を通して見てきたから知っている。 ターミナルでの最後の戦いから月日は流れ。 「ごめんね、銀時。こんな所に呼び出したりして」 「別に構やしねぇよ」 寂れた公園のベンチに並んで腰かけた銀時に、おしるこの缶ジュースを手渡す。 気が利くじゃねぇか、と言って早速手をつける銀時の傍らで空を見上げてみれば、真綿の様な雲が幾つも浮かび漂っていた。 「あれからもう一カ月だね。怪我の具合はどう?」 「もうほとんど完治はしてんだけどな。今しばらくは療養する予定」 「つまり仮病を使ってズル休み中って事か」 「おいおい、邪推はやめろって。なんか新八君が新社長としてはりきってっから、元社長が出張ったらかわいそうだろ。気遣いだよ、気遣い。俺も年をとって大人になったってこったな」 「やってる事はさしてあの頃と変っちゃいないと思うけど。まぁ急に真面目に働きだしたらあんたのキャラクター崩壊しちゃうから仕方ないか」 「何言ってくれちゃってんの!?緩急つけてるの、オンとオフを使い分けてるの。常に真面目でいるだけが正解と思ったら大間違いだっつの。――― だから、お前もたまにはハメ外して好き勝手したって罰は当たらないさ。何か相談事があるんだろ」 「それならお言葉に甘えようかな。いい加減まどろっこしいから、決着つけようと思ってね」 私も開封済みの紅茶にもう一度口をつけ、決意を固める。 「晋助がいなくなって、あれから私も色々と考えた。あいつがいなくても、生きていかなくちゃいけない。それが遺された者の義務だから。銀時にはたくさん支えてもらっちゃったよね。あんただって失った傷みは私と同じだったってのに」 「別に俺はいつもの様にバカやってただけさ」 「そのいつも通りに救われたんだよ。でもって改めて思った。銀時って頼りになる男だったんだなって」 「改めるまでもなく頼れる男だろ、俺は」 「うん。銀時も男の人だったんだよなって、気づいてしまった」 「――― は?」 ジッと銀時の目を見据えて。 「銀時が私の事友達としてしか見てないって事はわかってる。でも気付いた以上、今まで通りではいられない。わかるでしょう?」 「いやいやいや、わかんねぇ。全然わかんねぇよ。何いきなり言い出してんの、気は確かか?」 「女の子が真剣に想いを告げてるってのに茶化さないでよ、銀時の意地悪」 「頬を赤らめんな、お前そういうキャラじゃねぇだろ!」 うーん、わかっちゃいたけどここまで拒絶反応を示されるとは。 「ああわかった、そういう事。お前もファイナルファンタジーにのっかってる口だな?フラグも振りがなくても関係ない、最終回が近づくと急にキャラ達のカップルが成立するっつぅあの。そりゃもうだいぶ前に終わったから、結局全部勘違いだったから。そもそも俺とお前がとか、流石にあり得ないだろ!」 「けど、相手が銀時だったら晋助も許してくれるかなって」 「アホか!どう考えてもあいつ黙ってないよ!夜な夜な夢枕に立たれて呪われるっつの!」 いい雰囲気とは程遠い。 流石に無理があったか。 なら仕方ない、ほんとはここまでしたくはなかったけど。 「銀時は私の事、嫌い?」 「いや、好きだよ。ダチとしてな!」 「私の事女として意識した事、一度もない?」 「ねーよ、ただの一度もな」 「なら、意識して。これでも意識できないって言うなら、諦めるからさ」 「お前、何を」 銀時の胸倉を掴んで引き寄せ、距離を詰める。 呆気にとられ動けずにいる銀時の唇と私の唇とが今にも触れあおうとしたその瞬間。 風切り音が迫り、私と銀時の頭上を通り過ぎたかと思えば。 一拍置いて、前方の樹にドスッと一振りの刀が突き立った。 刀の軌道を逆にたどれば、そこには予想通り怒りのオーラを全面に出した晋助が立っていて。 「―― は!?高杉。何でお前が此処に。つーか何でお前!?」 「お帰り。ようやく会えて嬉しいよ、ダーリン」 うろたえる銀時をよそに茶化してそう声をかければ、晋助の怒り指数が増したのが容易に見て取れた。 . |