鬼女紅葉

□悔いなき最期
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ターミナルを舞台に、最後の大きな祭りの口火が切られた。

俺達以外の奴等を巻き込むまいと動いていたというのに、蓋を開けてみりゃ縁ある奴等が続々と押し寄せてきやがる始末。

本当なら、あいつもこの祭りに加わりたかったろうに。
先生と再び言葉を交わせるのも、あいつだったのかもしれないのに。

いつだって、他人の事を優先し自分の事を疎かにしがちなあいつをもどかしく思っていた。
俺はあいつにそういう選択を強いたりはしないと、そう思っていた筈だったのに。
結局いつだって、俺は助けられてばかりだ。


取り逃がした天導衆の連中を片付け、先生の元へと辿り着くことができた。
あの日朧の遺骨と共に取り込まれた虚の因子が俺の中で芽吹き、その感動の再会も束の間だったが。
身体を完全に乗っ取られる前に先生を行かせる事もできた。



「二百四十六勝、二百四十七敗。俺もヤキが回ったもんだぜ、最後の喧嘩他人に預けて白星もってかれちまうなんざ」
「高杉」
「虚如きじゃテメェは手に負えねぇ。やっぱりテメェをやれんのは俺しかいねぇな」



そしてこの身に虚を閉じ込めて、銀時に斬らせた。



「―― 虚を斬ったのは高杉、お前の剣だよ。松陽を護ったのも、俺を護ったのも全部お前だ。今回ばかりは一本とられちまったよ」
「お情けでもらった白星程惨めなもんはねぇ。けどおかげで借りだけは持ち越さずに済んだ。お前にはもう、先生を斬らせる訳にはいかねぇからよ。先生に比べりゃ俺は随分斬りやすかっただろ」
「ああ。こんだけ殴り慣れた憎らしいツラもいねぇからな。ガキの頃からそうだった。顔見合せる度にやりあって、ちったぁ背丈が伸びて大人になりゃマシになんだろうと思ってたが、結局どこまでいってもガキのまんま。それも悪かねぇが、高杉。俺は交わした剣の半分でもいい。テメェと酒も酌み交わしてみたかったよ」
「へっ、ガラにもねぇ。さっさと行きな。テメェにゃ傍で護らなきゃいけねぇ未来がまだあんだろ」



俺は、やらなきゃならなかった事は全てやりおおせる事ができた。
悔いはない。



「銀時。俺のこの潰れた左目は、あの日最後に見た光景を焼きつけたまんま閉じられちまった。俺はテメェのシケたツラ、うんざりするほどこの左目で眺めて生きて来たんだ。右目が閉じる時まで、ふぬけたツラ見せてんじゃねぇよ。あの日、俺の前に立ちはだかった男は、ずっとぶっ倒したかった男は、追いかけた男は、そんなもんじゃねぇだろ」
「地獄で首洗って待ってな、高杉。勝ち逃げはさせねぇ。次は必ず俺がとるぜ」
「上等だ」



最後に右目に刻みこまれたのは、少しぎこちなくはあるがあの涙ではなく不敵な笑み。
あれだけの悪事を重ねてきた俺にしては、悪くない最期だ。



" やりたかった事は出来た? "

" ああ、お前には感謝してるよ。これで悔いは残さず俺は逝ける。だから、残りの命はお前に返す。正直、重過ぎて喰えたもんじゃねぇからな "



闇にのまれた意識の中で、懐かしい声が響く。
その顔を見る事はできないが、この女の顔を忘れる筈もねぇ。

俺が死ねば、こいつの命も元の場所に帰り、眠り続けたままの身体も目を覚ます事だろう。
流石にこの先まで、こいつを引き連れていく訳にはいかねぇからな。



" 用済みになったら即行でポイ捨てとか、酷い男ね "
" 知ってただろ、俺が極悪人だって事くらい "
" 知ってたよ。あんたが極悪非道といわれながらも、護る為に必死に戦い続けてきたって事くらい "
" そんな大層なもんじゃねぇよ。俺はただ、自分のしてぇ事を好き勝手やってきただけだ "



やがて闇さえもかき消え、あいつの声も遠のき。
この想いを刻み込んだ魂は、この地球に回帰する。







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