宇宙全土を巻き込んだ戦争は幕を閉じ、戦いを経てボロボロになった町のあり様は酷いもんだった。 万事屋も例にもれず見事に天井が吹っ飛び、見上げればどこまでも続く空が広がる洒落た造りへと変貌を遂げたしな。 けど看板を下げると決めたのはそのせいではなく、他にやらなきゃならない事ができちまったからだ。 「ジュリエットの次は眠り姫かよ。お前は姫って柄じゃねぇだろ」 運よく無事だったこいつの家、ベッドの上に横たわりあの戦い以降ずっと眠り続けている千夜の頬に触れる。 そこに熱はなく、触れた指先が感じ取るのは硬質な質感だ。 結晶に覆われ小型化してしまった定春とは違い、千夜の身体が縮むような事はなかったが。 こいつの身体は至る部分が結晶化し、その機能を停止している。 「優しく口づけて起こしてくれる王子様を待ってるってんなら早々に諦めろ。お前も知っての通り、高杉にその役は務まらねぇよ」 あの巫女姉妹によれば、千夜も定春も死んだ訳ではいないという話だが、いつ目覚めるのかもわからないのだという。 「まだ終わっちゃいねぇんだ。その手段さえも、今はまだ何もわかっちゃいねぇけど。今度こそあいつを救うために、俺は先に行ってるぜ。黙って見てるのが嫌ならさっさと起きて、いつもみてーにしゃしゃり出て来いよ。じゃあな」 最後にクシャリと髪を撫でてから、この家を、住み慣れた町を後にした。 ――― そうして旅立ってから、二年という月日が経過した。 手始めに全国に点在する龍穴を調べて回り、その過程であのガキと出会い。 結局俺はまたあいつに救われ。 そして託された。 「おかしいねぇ、俺の記憶じゃココにはそんな墓なかった筈だが。ついでに真昼間からおかしな亡霊が出るような物騒な場所でもなかった」 松下村塾の跡地に赴いたのは、ただ何となく近くまで来たから立ち寄ったに過ぎない。 まさかそこに先客がいるとは思いもしなかった。 「亡霊に見えるか、この俺が。正直俺もテメェが生きてんのか死んでんのか、随分前からあやふやでな。いっそテメェの墓でもおっ建てられればよかったが生憎兄弟子と約束しちまったもんでな。必ずココへ帰してやる、と」 「ならさっさと成仏しな。もう用は終わったろ」 「終わった?そんな戯言言えんのは他の連中だけだと思ってたぜ。何度世界を救おうが、何度世界を壊そうが、終われねぇ事に気づいちまった。だから俺もお前も此処に来たんじゃねぇのか」 振り返りざまに切りかかってくるこいつの刃を打ち払う。 「生憎だが俺はとっくにおっ死んだ亡霊に線香あげに来るほど暇じゃねぇよ」 「なら二年もの間一体何をやってやがった?ままごと道具捨ててまで一体何を探してた!?」 「お前こそ、一体何してやがった?千夜の事も、知らねぇ訳じゃねぇんだろ」 「ああ、知ってるさ。何せ俺はあいつの命を踏み台にして、今此処に立ってんだからな」 斬撃の応酬で互いに軽い傷がつく。 怪我ともいえない程度のものだが、微かな痛みがひりついて残っている。 けどあいつに負わせた傷は、たちどころに跡形もなく消えやがった。 「高杉、お前!?」 「銀時、そいつはもうテメェの領分を外れてる。亡霊の手は亡霊にしか掴めねぇ。それとも、テメェもこっちに来るか?お前に、仲間の命を喰らう程の覚悟はあるのか?」 「何したんだよ、お前」 「俺が終わらせる。テメェはままごとやってんのがお似合いだぜ。間に合う内にさっさと引き返すこったな」 「待ちやがれ、高杉っ!!」 追おうにも追えなかったのは、高杉を追って来た警察官どもが一気に押し寄せてきたからだ。 高杉はその包囲網を難なく突破して颯爽と姿を眩ませていく。 ただ事ではない事情をあいつが抱えてんのはわかった。 その事情に千夜も一枚噛んでいるらしい事も。 一体あいつは、いや、あいつらは何やってんだ。 今すぐにでもとっ捕まえて洗いざらいはかせたいところだが。 「久々に骨のありそうな獲物がかかったな。腕が鳴るねぇ」 煙草片手に無駄にカッコつけて登場しやがった多串君がそれを許してくれそうもない。 たく、何でこいつがこんな田舎にいやがるんだよ。 色んな事がままならねぇ。 . |