鬼女紅葉

□夢は夢のまま
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あの夢を視た後からずっとずっと、どうしたら良いのかを考え続けていた。

まず手始めに神籬について調べつくし。
職場が縁で知り合った阿音ちゃんから龍脈について教わり。
神威達が回収していた神籬の兵器の幾つかを譲り受け。
鉄子ちゃんや源外さんの協力を得て。

といった具合に、終わりに抗う為の手段を探しに探し、駆けずり回った。



「目論見が外れちまったようで残念だったな、虚。こいつが脆弱だって?随分と笑わせてくれるじゃねえか。おかげで笑いをこらえるのに苦労したぜ」



本来であれば江戸を壊滅させていた筈の光は、江戸の主要施設や居住区を避ける様にして噴き出す様が視認できる。
銀時に支えられたまま、その光景を目にして一先ず安堵してから。



「――― 本当は、暴走自体を止めたかったんだけどね。まぁ一先ずここでのゲームオーバーを回避できたから良しとしておこうかな」
「何をした?いやそれよりも、何故生きている。確かに君は死んでいたはずだ」
「死んでたよ。殺される前に、この薬を飲んで一時的にね」



戦いの前に小太郎にもらった丸薬を掲げてみせる。
小太郎が黒縄島での脱獄の際に用いた、仮死状態になる薬だ。



「あの場に放置されて、ラスボスが不在になったところで門をどうにかするってのが理想のかたちだったんだけど、まぁそこまで上手くはいかないか」
「予め私に敗北する事も折り込み済みだったという訳か」
「あわよくば倒してしまおうと本気で挑んではいたけどね。大勢の人達の命がかかってる以上、失敗は許されない。たとえターミナルの制御が駄目だったとしても大丈夫なように、策を巡らせておくのは当然でしょう」



暴走が始まった場合、地球のアルタナ全てを食い止める事は不可能だ。
けれど事前に地球を巡る龍脈をいじり、暴走の流れを操作する事ならば不可能ではない。

黒縄島で銀時達が戦っている間に定春君と共に色々な場所を巡り、アルタナが噴き出しても被害の少ない場所を吟味し仕込んでおいたのだ。



「本当に、君達は目障りですね」
「光栄ね。ところで、さっきから私の刀を手にしているようだけど大丈夫?その刀、神籬のアルタナを纏っているから。ああ、やっぱり。その腕も、じわじわと劣化が進んでる」
「全ては君の手の上だったという訳ですか。ですが、私は更にその上を見据えている。この国のアルタナによる壊滅は叶いませんでしたが、今ターミナルにこの星全てのアルタナを集め、宇宙に放つ準備を整えています。星をも破壊する解放軍の力とこの星の全ての力がぶつかれば、この星だけでなく宇宙全てを終わりにできる」
「フフ、何を言うかと思えば。まだ理解できていないみたいね、私達の事を。そんな事は起こりえない。何故なら宇宙には晋助達がいて絶対に火之迦具土神を止めてみせるから」
「そんでもって地球には俺達がいて、お前もろとも止めてみせるからな」
「止められるものならば止めてみるといい。そこまで言うのであれば、最期に相応しい場所で待っていますよ。見せてもらおうではないですか。僅かに残された時間の中で君達に何ができるのか。この地球の底力というやつを」



その場に刀を突き立てて、虚が踵を返し去って行くのを見届けたところで。

ゴンっといきなり頭に衝撃が走る。



「つーかお前!ほんと、マジで勘弁しろよ!!」
「いったぁ!いきなり何するのさ!?」
「あんな思いすんのは二度とご免だっつったろ!しかも前よりバージョンアップしてっし!」
「事前にちゃんと言ったじゃん。場合によってはジュリエットになるかもだけど、ロミオにはならないでね、って」
「そんなんでわかってたまるか!大体、仮死状態なのか本当に死んでんのかなんて見わけがつく訳ないだろ。最悪な登場の仕方しやがって!」
「銀ちゃんの言う通りネ!酷いアル!そうならそうと私にも教えてよ。知ってたらまんまと騙されてうろたえる神威の顔見逃さなかったのに!」
「バカ言うなよ。この程度の事で俺がうろたえる訳ないだろ」
「ていうか銀さん、冒頭で全部知ってましたみたいな体で話してましたよね」
「そりゃお前、まんまとあの虚をだしぬいてやったんだぜ。ここぞとばかりにおちょくらない手はないだろうが」
「たく、お前さんはまともなようでいて、いざって時は団長に負けず劣らずの無茶をしやがる。ほれ、大事な刀なんだろう」
「阿伏兎さん。ありがとうございます」

『随分と賑やかな様じゃあねえか。この絶望的な状況で、どいつもこいつも能天気なもんだな』



緊張の糸が一時的に途切れわちゃわちゃと騒ぎ立てる中に、聞き慣れた、此処にはいない男の声が通信機を通して響く。



『こっちは宇宙をとったぜ。全部片付いた。お前は当然アルタナの暴走を抑えてみせたんだろうな、千夜』
「止める事は出来なかったけど、抑えてみせたよ。晋助が宇宙をとるなら、地球の壊滅を防ぐ位やってのけなきゃだからね」
『だとよ、銀時。次はテメェだ。俺達がこの程度の事やってのけたんだ。テメェも相応の事をしてみせろよ』
「ほざきやがれ。ちょっと解放軍止めただけで偉そうに!まさかもう、俺の役目は果たしたぜ、とか自分に酔って浸ってんじゃねえだろうな!?」
『相変わらずよく吠えやがる。自信がなくて誤魔化すのに必死か?』
「バカ言うな、護り通してみせるさ。そんでもって全部に片がついたら次はお前だ、覚悟しとけよ」
『それはこっちの科白だ。首洗って待ってな』



何もこんな時まで憎まれ口叩き合わなくてもいいのに、と思いつつも。
常と変わらぬその二人のやりとりについつい笑みがこぼれてしまう。

宇宙の問題は晋助達が消し去った。
ならば地球の問題は私達が何としてでも解決しなくては。
こんなやりとりをいつまでも見ていられるように。







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