鬼女紅葉

□唯一の勝ち筋
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そして、戦いの火蓋は切って落とされる。

圧倒的な戦力差を前にしても、江戸に暮らす人達は屈するという事を知らないらしい。

初めに大きな一手を打って出たのは源外さんだ。
全てのカラクリを無力化するという彼の発明品により、解放軍の戦力は大きく削がれる事となる。

それに伴い、敵に目を付けられたかぶき町は戦いの舞台と化した。
解放軍の数多の軍勢がかぶき町に押し寄せ。
と同時に、敵の狙いが定まった事で、この町へと縁ある者達が解放軍に対抗すべく次々と集まっている。



「――― 終わりか、これで?」
「ああ、終わりだ」



押し寄せる軍勢の中でも突出した戦闘力を誇る茶吉尼、その頭目である王蓋を銀時達が何とか打ち倒したところで。
圧倒的な劣勢だった戦況が変わろうとしていた。



「女を前に逃亡とは、大したオスどもじゃ」
「女に大将の首をとられながら仇討ちもできんのか、貴様らは」



一番の強さを誇った王蓋が倒された事で、解放軍に動揺が走り、一部の者が撤退を始める。
けれど、事態が良い方に転がり出した時ほど、慎重にならないと足元を掬われるのが常だ。

凄まじい威力のもと投げつけられた金棒目がけて、家屋の上からダイブする。
落下の勢いを利用して、九兵衛に向かっていた金棒を地面にめり込ませ軌道を強制的に変えてみせた。



「君は――」
「主は――」
「お久しぶりです。九兵衛さんに月詠さん」
「チッ、来るのが遅ぇんだよ。千夜」
「いやぁ、少し前からこの町に居るにはいたんだけどね」
「つまり何か、俺らが命がけで戦ってる様を高みの見物した上で、カッコ良く登場決められるシーンを狙ってたっつー事か!?おいおい、随分と偉くなったもんだな」
「こんな混戦じゃ状況を俯瞰して見る人間も必要でしょう?まぁでも、陰でコソコソと動いていた連中への対策は済んだみたいだから。そこの茶吉尼の首は私がもらい受けようと思ってね」



まだ多くこの場に留まっているかぶき町の住人たちがいる建物の屋上を見上げれば。
その背後には辰羅の戦闘員がズラリと並んでいる。
かぶき町の住人を人質にとり、全ての兵器をお釈迦にしたウイルス砲の開発者を差し出せと脅しをかけにきたようだ。



「次から次へと、また女、か。どこまでも愚弄しおって」
「その女子供に追い詰められて、背後から不意をついて攻撃を仕掛ける事しか出来なかったのは何処のどいつだったかしら?」



意識を取り戻し、立ちあがった王蓋の前に立ちはだかり。



「あんた達は辰羅の方を。此処は私一人で十分だから」
「おいおい、手負いとはいえあの化け物相手に一人で戦う気か?」
「夜兎と茶吉尼、どっちが強いか比べてみるのも悪くない。それに、虚の前に新たな武器の切れ味も確かめておきたかったしね」
「どっかのバカ兄貴が言いそうな科白だな。長らく一緒にいる内に戦闘狂が移ったか?」
「まさか。だとしたらあんた達が戦ってる時に無理矢理割り込んでるよ。高みから情報収集なんてしてないでね」
「―― わかった。こっちは任せたぞ」
「うん、任された」



刃を向ける。



「さて、ここから先は私が相手をしてあげよう。鬼なら私がやったげるからさ、遊びの続きといこうじゃないの」
「兎如きがのぼせおって。戦場に茶吉尼ありと伝説を打ち立てた我等に敵うと思っているのなら、その思い上がりを完膚なきまでに叩き潰してやろうではないか!」



激昂した王蓋が動き出す。
巨躯ではあるが、持前の怪力を機動力にした動きは速い。
けれど、見きれない程ではない。



「まずはその不格好に残った角を潰してあげる」
「―― っ、何!?」



宣言通りに、唯一無事だった王蓋の角を切り落とす。
中々の切れ味だ。
この戦いの為に鉄子ちゃんに打ってもらった新たな私の刀、紅葉。
薄紅かかったその刀身は少しも欠ける事無く、鋭い光をきらめかせている。

そして、新たに備えた武器は刀だけではない。
こちらは源外さんに造ってもらった小型拳銃だ。
チャキッと小気味よい音を立てさせ、銃の照準を王蓋に合わせる。



「そんな小さな銃がこの俺に通用するとでも。それに忘れたか?兵器は無力化されている。貴様らの手によってな」
「心配には及ばないよ。筒としての役割さえ果たせれば事足りる。通用するかどうかは、」



その身で思い知るといい。
好機とばかりに拳を振り上げ向かってくる王蓋に向けて、引き金を引く。
銃口からは鋭い光の弾丸が放たれ、狙いと違わず命中した。



「大した豆鉄砲だな。終わりだ、死ねぃっ!!」



勝ちを確信した次の瞬間、王蓋の身体が不自然なほどに膨れ上がる。
自分の身に何が起こっているのか理解が及ぶ前に、許容量を超えたエネルギーが強靭な茶吉尼の身体を内から破り。



「なん、だ、とっ」
「何事も侮る事なく警戒する癖をつけた方がいい。さようなら」



その身を塵へと変えてしまった。

対虚用に準備した兵器の威力も中々の様だ。
けど、思った以上に消耗が激しい。
自分とその周辺のアルタナをかき集め、銃弾とするこの銃はあまり多用できそうにない。
とはいえ、ふらつきそうな身体に鞭打って、余裕とばかりの虚勢を張る。



「まずは一人目、口ほどにもない。さて、次は誰が相手をしてくれるのかしら?死にたい奴からかかってくるといい」



依然こちらの劣勢に変わりはないけれど、その事を気取られてはならない。

攻め入ってきた解放軍に圧倒的な力を見せつけ、恐怖を植え付ける。
その恐怖は伝染し、やがて敵の戦意を根こそぎ奪う。

はったりで翻弄し撤退を余儀なくさせる、それが私達の唯一の勝ち筋だから。







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