うるさい妹を黙らせ、ようやく喧嘩の続きが出来ると思って戻ってみれば。 何だ、この状況は? 意味がわからない。 「星海坊主。しっかりしろ、おいっ!」 「どうやら行ったらしいな。―― だとしたら、 俺の勝ちだな」 「星海坊主さん、手当てします。身体、動かしますよ」 「左腕は家族を捨てなくなった。だが、右腕は家族を守ってなくなった。俺にしちゃあ上出来じゃねぇか」 俺達を守って死ねて満足です、とでも言うつもりか? 何勝手な事をぬかしてんだよ。 ふざけるな、勘違いも甚だしい。 「あんたの右腕はバカ息子をぶん殴る為に残ってたんじゃないのかよ」 「―― 神威」 「何でそんなところに転がってる。何であんな奴に醜態さらしてる。立てよ、俺との決着はまだ着いちゃいない」 「団長」 「そんなもんじゃないだろう、あんたは。立てよ!」 「止めろ、団長。星海坊主は、あんたの親父はもう」 もう戦えないとでも? そんなの認めない、認められるか。 死にかけていようと関係ない。 戦えないっていうなら、俺がとどめをさしてやる。 そう決めて踏み出そうとした俺の行く手を阻んだのは、突如飛来し地面に突き立った木刀で。 銀髪の侍が俺の前に立ち塞がる。 それからメガネとデカイ犬。 神楽の地球の仲間がぞろぞろと。 「何しに来た?」 「家族の問題に立ち入るなとでも?あいつの為に動くのに血も理由も必要ねぇよ」 「神威さん、その拳退いて下さい。これ以上神楽ちゃんを、家族を、自分を苦しめるのは止めて下さい」 関係ない奴は引っ込んでいればいいものを。 「どうしても退かないってんなら、あのハゲを倒す為に手にしてきたもん全部、俺にぶつけてみろ。お前の夢も努力も、そしてその先にある最強も、縁も所縁もねぇ俺が全部踏み散らかしてやるからよ。お前が欲しがってたもんってのはそんなもんだ」 安い挑発だとわかっているけど、あえて乗ってやろう。 邪魔立てするなら、たとえあいつの大事な居場所だろうと壊すまでだ。 「聞こえなかったか、邪魔だって言ってんだ!」 「聞こえなかったか、全部出せっつったんだ!」 殺すつもりで一撃をみまった。 だというのに、カウンターを喰らって吹き飛ばされるとは思わなかった。 曲がりなりにも鳳仙を倒しただけの事はあるらしい。 「それがお前の全部か?だったら親父になんて勝てる筈もねぇ。追いかけてた筈がいつの間にか逃げてたんだろ。親父から、家族から」 うるさい。 戦いの最中に無駄口を叩くな。 「お前は空っぽだ。だから自分に意味が欲しかったんだろ。最強?そんな大層な名前なんかなくても、テメェにゃお誂え向きの名前があんだろ。――― なぁ、バカ兄貴!」 空っぽで構わないさ。 それ位じゃないと最強の名は器に収まらないだろうから。 どいつもこいつも、家族家族と。 そんなものは遠の昔に捨てたんだ。 あの時、あの瞬間から。 「お前は小さな星で、自分の小さな家族だけ守ってれば良かったんだ。空っぽになる覚悟もないのに、俺の前に何故立った?お前は何も守れずに死ぬ。あいつから全てを奪ったのは、俺とお前。二人のバカ兄貴だよ!」 「空っぽになるのに覚悟なんているかよ。失うもんのねぇ強さは、何も守れねぇ弱さと同じだ。お前には俺から何ものも奪えねぇよ」 口先だけは立派なもんだ。 自分一つ守れもしないくせに。 守れもしないなら、端から何も持つべきではないというのに。 なのに何故、立ち上がる。 何故、立ち向かう事を止めない。 「俺もお前と同じだ。空っぽだった。何もかも失って、失う怖さを知って、空っぽのまま生きてた。意味も名前もなく。その空っぽの器にもう一度意味をくれたのがいつの間にか俺の中にいたお前の妹達だよ。人の中にズカズカ入り込んでた図々しい連中が、俺にもう一度名前をくれた。そん時になって気づいた。俺は何もなくしてなんかいねぇ。ただビビって逃げてただけなんだってな。俺はもう逃げねぇ。守る事からも、失う事からも」 知ったような口をきくなよ。 「だから神威、お前も負けんな。思い出せ、空っぽの器の底にこびりついたお前の本当の名を!」 俺とお前を一緒にするなよ。 俺は! 「これがお前の限界だ!」 幾度も打ち倒されて、その度立ち上がってきたものの、ようやく体力の底がついたらしい。 度重なるダメージで満足に動く事もできない侍に、今度こそ二度と立ち上がれないようとどめをさしてやる。 「――― 止めろ!神威!!」 完璧にとらえた筈だった。 侍を守るために神楽が飛び出してきたが、もろとも殺せばいいだけだった。 「それがお前の限界だ。バカ兄貴」 なのに。 何故たじろいだ? 拳を振るう事を何故躊躇った? 木刀の痛烈な一撃をまともにくらい、身体が吹っ飛ぶ。 けど、痛みよりも問題なのは、自分の中に垣間見た揺らぎの方だった。 . |