短編置き場

□どこまでも
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愛佳side





進路希望調査の締め切りが迫っていた高2の秋。


『理佐、大学決まった?』

「…まだだよ。愛佳は?」

『私も。全然決まんないよ。1年後のことなんかわかんないよね。』

「ほんと笑」


そうやっていつものように2人で笑いながら話していたはずなのに。

それから数ヶ月たち、2年生の3学期もそろそろ終わるという時期。


「理佐、いつ出発するの?」

「ちょ、おだなな…。」

『ん、何の話?理佐どっかいくの?』



「理佐、来年からアメリカ行くじゃん。」

『え…。』

「あれ…、理佐、まだ言ってなかったの?」



理佐は、申し訳なさそうな顔で、そしてどこか泣きそうな顔をしてうつむいた。

…なんで。
小さいときから、好きな食べ物も嫌いな食べ物も好きな映画もお互いのことは全部知っていたはずなのに。
私と理佐の間に、秘密はないと思っていた。
いや、あるとしても、私の理佐に対するこの思いだけだって。
そう思っていたのは私だけだったんだ。

気づけば、視界がぼやけていて。
理佐の「ごめん。」という言葉とともに、私の手に涙が零れ落ちた。






・・・・・・・・・・・・・・・・・






あれから数週間。今日はもう終業式。
頭の中は理佐のことばっかりで。
全く授業が頭に入らなかった。
ちゃんと話したいという思いもあるけど、どうしても理佐の目を見れなくて、ろくに話もしていない。

話せなかった。
理佐がなんで留学のことを言ってくれなかったのか。
なんであのとき、悲しそうな顔をしていたのか。
その答えを聞くのが怖かった。


「愛佳…おはよう。」

『おはよう。おだなな。』

「…理佐、今日出発するんだ。」

『…しってる』


あれからクラスメイトの噂で出発の日にちを聞いた。
理佐からいくつもメールが届いていたけど、みる勇気がなかった。


「10時のバスで、空港に向かうって。」


私は会いに行くべきなのかな。
会ったらなにを話せばいいのかな。

涙をこらえ、俯いた私におだななが手紙を差し出した
そこには、見慣れた字で[愛佳へ]と書かれていた。


「これ、昨日理佐に頼まれたの。愛佳に渡してって。…読んであげて。」


もう堪え切れなかった。
理佐の思いを知るのは怖い。
理佐に対する怒りがないわけじゃない。
けど、留学を知ったあのときから、私の中の理佐の存在の大きさを改めて知って。


なによりも私が怖かったのは
理佐のそばにいられなくなることだったんだって気づいた。


手紙を受け取り、学校を飛び出して駅まで走った。


電車に乗り、握り締めていた手紙を開く。


(愛佳へ。

 留学のこと、言えなくてごめん。
 
 愛佳は優しいから、きっと泣くだろうなって思って。
 その涙見たら、この決心が揺らいじゃうような気がして、どうしてもいえなかった。


 愛佳の涙見たら、だめなんだよ私。


 だから、こんな形でしか伝えられないのを許してください。


 好きだよ。愛佳。




そこから先は読めなかった。
電車の中、人目も気にせず泣いた。
全然しらなかった。理佐の気持ち…。




目的の駅につき、バス停のほうへ走っていると、少し先に見慣れた背中を見つけた。


なにを話せばいいかなんて不安はもう一ミリもなかった。

一言で全てが伝わると思った。



その見慣れた愛おしい人の名前を呼んで

そして目を見て、笑顔で言えばいい。






私の大好きな理佐。





いってらっしゃい。

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