短編置き場

□聖なる夜に。
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理佐side





真っ黒な空から、正反対の真っ白な雪が舞い落ちてくる。
周りを見渡せば、色とりどりの光が街中に散らばっていた。

無意識のうちにマフラーに顔をうずめてしまうほどの寒さの中、私は1人でベンチに座った。




「そうだ!明日の夜みんなでご飯行こうよ!クリスマスだし!」




昨日の仕事終わりの楽屋でそんなことを言い始めたのは、たしかふーちゃんだったっけ。
普段、みんなそれぞれ学業とか仕事があるのに、マネージャーさんからのクリスマスプレゼントで、全員オフがもらえた。


欅坂のまとめ役のような存在であるふーちゃんがお店の予約をしてくれて、現地集合になって。

それで私は、一緒にお店に向かう約束をした愛佳をかれこれ10分くらい待っていた。




「…理佐!」





賑やかな街の中でも、頭に思い浮かべていた人の声はすぐに気づくもので。

振り向くと、申し訳なさそうな顔をした愛佳と目が合った。




「ごめん!遅くなって…」

『もー、やっときた。どうせ寝坊したんでしょ笑』

「いや、ちょっとやることあって…。」

『ん?そうなの?』




愛佳はまた小さな声で、ごめん。つぶやいた。




『んーん。大丈夫。もうほとんどみんなお店着いてるって。早く行こ。』

「うん!」




やっといつもの柔らかい表情にもどった愛佳と、人々があふれる街の中へ入っていく。




「なんか、人多いね。」

『クリスマスだからじゃない?』

「あ、そういうことか。だからカップルばっかりなんだ。」




すれ違う人も、私達の前を行く人も、改めてみればカップルばかりで。
手を繋いでいたり、クリスマスプレゼントを渡していたり。
そんな風景を見ていると、だんだん心が締め付けられるように息苦しくなった。


今、恋人達が溢れる街の中で、私の隣を歩いているのは、愛佳。
同じグループで、同い年で、同じように人見知りの愛佳。


そんな愛佳をちらっと見ると、東京のクリスマスに興味津々なのか、次々と現れる光を目で追っていた。



綺麗な横顔に、冬が良く似合う白い肌。
会うたびに増していく、愛佳に対するいけない気持ち。
なんとなく心が苦しくなって俯いた。



今、愛佳はなにを考えているのだろう。
これから行われるクリスマスパーティーのことだろうなきっと。




「…理佐?」

『わっ…!』




名前を呼ばれて横を向いた瞬間、愛佳の顔がすごく近くにあって。
驚きとは違う意味で、鼓動が早くなるのを感じた。




「なんかぼーっとしてたけど、大丈夫?」

『あ、ごめん。大丈夫だよ。』

「そう?」




そう答えても、愛佳は立ち止まって、心配そうに私の顔を覗き込んできて、なにかを察したように私の右手を握った。
愛佳の体温が、直に伝わってくる。
私の全ての感覚がそこに集中するように、街の賑やかな声が消えた。




「あ、やっぱり…。」

『…なにっ…。』




顔赤くなってないかな。
心臓がバクバクいってるの、気づかれてないかな。
そんな私の心配なんて1mmも知らない愛佳は、そのまま歩き始めた。
私の右手は愛佳の左手に繋がれたままで。




『ちょっと…愛佳?』

「私が遅かったから…。寒かったでしょ?ごめんね。」

『それは大丈夫だけど…。』

「嘘だー。鼻赤くなってるもん。手も冷たいし。だから、このままでいいでしょ?」

『でも…、誰が見てるかわかんないじゃん。』

「大丈夫だよ。クリスマスなんだから。みんな自分の恋人しか見てないよ。」




そういって、愛佳は優しく笑った。





愛佳は今誰を見ているの?




この状況のせいか、なんだかすごく切なくなって。
なぜか、愛佳が遠くに感じて。
引き止めるように、愛佳の手を握り返した。


そのあとは、いつものようにくだらない話をして。


5分くらい歩くと、皆が待つお店に到着した。




『あ、ここだ。いこっか。手、ありがとう。』




名残惜しいけど、なんとも思ってない風を装いながら、手を離した。
これでいい。愛佳は同じメンバーの1人なだけなんだから。




「あ…理佐待って。」

『ん?』




お店に入ろうとすると、愛佳に引き止められた。




「ご飯の後さ…、うち寄ってかない?」




愛佳は少しうつむきながら、ぼそぼそした声で言った。
普段から愛佳の部屋にはよく遊びに行くし、別に珍しくないんだけど。
クリスマスというフィルターがかかった今日は、なんだか特別なように思えた。
勝手にどきどきして愛佳への気持ちが溢れそうになるけど、必死にこらえていつもの笑顔を作った。




『うん。行く。』

「ほんと?よかったー。」




愛佳は私の大好きな笑顔を見せた。



少し緊張してるように見えたのは私の気のせいかな。



「じゃ、いこっか。」

『あ、うん。』



みんなと合流するのに、なかなか収まらない胸のざわつき。
愛佳にこの思いを伝えてしまったら、何かが変わるのだろうか。




そのあと、今までのクリスマスの中で一番のプレゼントが待っているなんて、私は少しも思っていなかった。
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