部誌参加小説
□海の物語〜りんご色〜
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浜辺で泣いている女の子が居た。
白いワンピースに黄金色の麦藁帽子をかぶった、小さな女の子。年齢は五歳か六歳あたり。そんな女の子が秋の誰も居ない海で泣いていた。
「海や〜!!」
元気の良い叫びがバス停の方から聞こえた。髪の天然パーマが特徴の高羽 玲奈だ。
「海なんて久しぶりね。」
玲奈の隣で嬉しさを含んだ声を発したのは、杉浦 水希だった。水希は大人っぽい服を着ていて、玲奈より年上に見える。しかし、玲奈と同じ年だ。
「は〜。」
2人の後ろでため息を漏らしたのは青羽 竜。
「本当は水希ちゃんと2人っきりで来る予定だったのによ。」
竜がそう呟き、またため息をつく。
「いいやん!多い方が楽しいで。」
玲奈は無邪気に笑って言った。
「そういう問題じゃなくてな〜。」
竜の口からまたしてもため息が漏れる。
「それに、この海には噂がある。」
皆は一斉に、声を発した少女を見た。凛々しく整った顔が海を向いていた。瀞水 華凛、それが少女の名前だ。
「噂?」
玲奈が首を傾げて尋ねる。
「そう、触れない女の子が居るらしいよ。」
「は?」
華凛のあまりにも突拍子も無い言葉に竜は間の抜けた声を出した。
「触れない?どういうことなの?」
水希も意味がよく分からないらしい。
「さあ?」
華凛は肩を竦める。
「まあ、ただの噂だし。触れないなら、害は無いだろうから、別に気にしなくてもいいんじゃない?」
華凛は素っ気無くそう言い残して、浜辺へと降りて行った。残された3人は、顔を合わして、首を傾げるばかりだった。
「秋の海はさすがに冷たいよね〜。」
玲奈がしゃがんで、打ち寄せてくる波を見ながら言う。
「そうだね。」
水希も玲奈の隣にしゃがんで頷く。
「もしかして、泳ぎたかったのか?」
竜が呆れ気味に尋ねる。
「うん。」
玲奈の頷きに竜は苦笑した。
「泳げない代わりに、誰も居ないからいいんじゃない?」
華凛が水平線を眺めて言う。太陽の光が海の水に反射して、キラキラと光っている。さながら、海に宝石を鏤めた様だ。聴こえてくる音はかもめの鳴き声、波の音しか聞こえない。この辺は市街地よりだいぶ離れた場所にあり、ほとんど車も通らない。とても静かな場所だ。
「浜辺、歩いてみよっか?」
水希が立ち上がりながら言う。
「うん!賛成や!」
玲奈が勢いよく立ち上がって、答えた。
「そうだな。」
竜が頷く。華凛も無言で頷いた。