止められた時計

□4章、お茶会
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「ん?その本は?」


次の時間帯、1人でリンの元に訪れたブラッドは枕元に置いてある本に首を傾げた。
リンはどしゃ降りの雨の中で見つかったのだ、なのに本には雨に濡れた形跡がまるでない。
この世界では不思議な事ではないが、リンがその本を見て不思議そうにしていない事が不思議だった。
尋ねられたリンは普通の笑みで、何事もないように本について話す。


「分からないんですよね。エリオットさんの話によれば、最初から持っていたらしいんですけど。」


その反応は記憶喪失、だからなのだろうか。
しかし、別にリンの記憶喪失は知識が消えたわけではない。
思い出だけが消えたのだ。
なので、本が濡れていない事を不思議に思うはず。
とてつもなく鈍いから、という理由もあるかもしれないが。


「中を見てみても何も書いてないんですよ。・・・何なんでしょう?」


本を開け、白紙のページを眺めながらリンは首を傾げる。


「まぁ、でも白紙の本なら、自分で内容を書いちゃえばいいですよね。」


リンはあはは、と爽やかに笑った。


「では、君はどんな事を本に書くのかな?」


ブラッドはベッドの端に腰をかけ、本を覗き込んだ。
本当に本の中身は白紙だった。


「ん〜、ブラッドさんは何を書きます?」


リンは質問を質問で返してきた。
その問い掛けが不意だったので、ブラッドは咄嗟に返せなかった。


「・・・そうだな、私なら紅茶について書くだろうな。」


数瞬考えたのち、ブラッドはそう答えた。


「紅茶、ですか。」


リンの口調にわずかに戸惑った雰囲気が含まれた。
紅茶の知識は記憶に残っていても、飲んだ記憶がないので、どう反応すればいいのか分からないのだろう。


「ブラッドさんは紅茶がお好きなんですね。」


リンはそう無難な言葉を返してきた。
つまらない、もっと面白い言葉を返せばいいものを。


「飲んでみたいです。ブラッドさんが一番おすすめする紅茶を。」

「君は紅茶が好きなのかな?」


ブラッドはにやりと笑って、そう問いかけた。


「私は紅茶の味が分かるお客しかお茶会に同席させたくないのだよ。」


そう言うと、案の定リンは困った顔をする。


「たぶん、好きになりますよ。」


しかし、すぐにリンの困り顔は笑顔に変わった。


「だって、ブラッドさんが本に書きたい程好きな紅茶ですよ?私も好きなりますよ、いえ、好きになりたいです。」

「・・・では、もし、好きにならなかったどうするのかな?」


ブラッドはわざと剣呑な雰囲気を纏って尋ねた。
内心ではリンがどう対応するのかを楽しそうに返答を待つ。
もし、つまらない返答でもしたら、消してしまうか。
別にブラッドはリン自体を気に入っているわけではない。
リンの奥にある本性を見てみたいと思っただけだ。
それを見る事ができなくなるのは、残念だが、つまらないモノの方が嫌いだ。
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