止められた時計
□3章、玩具
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3章、玩具
「たぶん、心因性の記憶喪失でしょう。」
医者はカルテに何やら書き加えながらそう言った。
「時間が経てば、戻りますよ。彼女に戻す気さえあれば。」
ようやく目覚めた余所者は記憶喪失に陥っていた。
「ふむ、これは面白いな。」
ブラッドは楽しげに余所者をジロジロと見る。
「いや、こっちはまったくもって面白くないですから。」
余所者は呆れた感じで、恨めしそうにブラッドを睨んできた。
「そう言いながら、君も記憶喪失だといいながら、余裕そうじゃないか。」
ブラッドはますます楽しそうに余所者を見る。
しかし、彼女は視線の類を気にしないようで、平然とブラッドを見返してくる。
「ん〜、貴方が来るまでは、泣きそうに混乱してましたよ?だけど、エリオットさんが連れてきた貴方がだるそうで、紅茶片手だったから、がくーって来ちゃったていうか・・・。」
彼女は、あはは、と苦笑いをしながら、頬掻いた。
「それに、私以上にエリオットさんが慌ててましたから・・・。」
そうなのだ。
彼女の言う通り、エリオットは慌てまくっていた。
大慌てで自分を呼ぶものだから、何事かと思ってしまった。
それでも、だるそうなスタンスを保てたから自分はさすがだろう。
「まぁ、自分より慌てている者を見ると、人は平静になれるというからね。」
ブラッドはコクリと紅茶を一口飲む。