止められた時計

□6章、迷子再び
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「リンお姉さん、その鞄なに?」


ディーはリンが肩から下げている鞄を見て、首を傾げた。
服と同じ緑色だったため、気付かなかった。


「何が入ってるの?」


ダムも興味がそそられたのか、リンに尋ねる。
前の時間帯にリンを見かけた時、持っていなかった物だ。
気になるのも仕方ない。


「前の前の時間帯に使用人さんに作ってもらうよう頼んだんだ。それが今日できたの!」


リンが嬉しそうに説明し始める。
ふたはボタンで留めるタイプの物で、リンはそのボタンをゆったりと外す。
中から出てきたのは1冊の本。


「それって、リンお姉さんが見つかった時に持っていた奴?」


ディーがエリオットから聞いた話を思い出して尋ねた。
リンの寝ていた枕元に置いてあったので、エリオットに尋ねたのだ。
確か、こんな事を言っていたはず。


「うん、そうだよ〜。」


リンは頷き、肯定を示した。


「何が書いてあるの?」

「残念、何も書いてないんだ〜。」


ダムの言葉に、リンは本を開いた。
2人とも身を乗り出すように本を覗き込む。
本当に何も書かれていない。
ただの白紙。


「何か、リンお姉さんの記憶みたいだね。」


ディーがふと思った事を口にすると、リンはきょとん、と彼を見返してきた。


「だってそうでしょ?リンお姉さんの記憶も白紙で、この本も白紙。同じでしょ?」


リンは記憶喪失だ。
自分の事も、友達の事も、家族の事も、何も知らない。
白紙なのだ。
それとこの本も同じ。
タイトルもない、内容もない、何にも書いてない。
白紙としか言いようがない。


「そうだね〜。」


リンがニコニコと微笑んで頷いた。


「・・・?」


その笑みにディーもダムも内心、首を傾げた。
微妙な感情をそこに見つけたからだ。
2人は同時にお互いの顔を見た。
それは2人とも同じ事を思った証拠。


「・・・・・・。」


ディーは彼女を見つめる。
自分の目の錯覚だと確信したいために。


「・・・・・・。」


ダムは彼女を見つめる。
自分がそう感じてしまったと思いたくないために。


「どうしたの?2人とも。」


ニコニコと笑うリン。
それはいつもの笑顔だった。
2人は心の中で安堵の息を吐く。


「何でもないよ、リンお姉さん。」

「そうだよ、何でもないよ。」


そっか、とリンはニコニコと笑った。
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