止められた時計
□4章、お茶会
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次の時間帯、予告どおりお茶会は開かれた。
場所はリンが寝ている客間で。
参加者は2人、リンとブラッドだ。
「ダージリンというのは、紅茶の中でも最も香りを重視する銘柄なのだよ。」
ブラッドはいつものだるそうなスタンスを忘れ、目を輝かせて紅茶の講釈をリンへとしていた。
「この香りがダージリンの価値を左右するといっても過言じゃない。」
今回のお茶会ではリンの名前である、ダージリンを用意させた。
「マスカットフレイバーと言って、独特な香りを持っていて、強く甘い香りがする。」
部屋にはブラッドが話している香りが広がっていた。
「そして、比較的に強い渋みを持つ紅茶ではあるが、これは決してマイナスではない。深みのある味を与えてくれるのだよ。」
ブラッドは机の上にある紅茶の蒸らし時間を計るには小さめの砂時計を軽く叩いた。
「ダージリンは短時間で渋みや出る事が多いため、蒸らし時間は短めにとる。まぁ、例外はあるのだが。」
これはダージリン専用の砂時計なのだ。
「ふむ、それにしてもダージリンは3大紅茶と呼ばれているだけあって、劣悪品や偽物が多い。」
もちろん、今飲んでいる紅茶は正真正銘の本物であり、フラワリー・オレンジ・ペコーをブレンドした最高級品だ。
「とても悲しい事だ。」
「だね〜。」
リンは猫舌らしく、紅茶にふぅーと息を吹きかけながら、相槌を打った。
ようやく冷めたらしく、リンが紅茶をコクリと一口飲む。
「・・・・・・。」
そして、固まった。
「ん?どうしてんだい?」
紅茶を呆然と見て、硬直するリン。
ブラッドの問いかけも聞こえていないようだ。
「・・・美味しい。」
そろそろ杖で殴ろうかと思った時、リンは呟いた。
「すっごく、美味しいです。」
それは本心から出たと分かる口調だった。
「わっ、わっ、こんな紅茶初めて飲んだ、というか初めての紅茶がこんなに美味しい!?」
わたわたと慌て始めるリンにブラッドは思わず笑ってしまった。
「当たり前だ。これは私が手間と金をかけて独自にブレンドした最高級の紅茶だ。美味くないわけがないだろう。」
思わず自慢げにいったブラッドをリンは感心したような顔で見る。
「ふぇ〜、すごい・・・。記憶ないけど、たぶん飲んだ中で一番美味しいんだと思う。だって、感動した!」
ぱぁ、と花が咲いたような笑顔。
ブラッドは思わず笑みを深くした。
このままいけば、完全に彼女の余裕を突き崩せる。
さらに何かブラッドが言おうとした時、すぅ、とリンの笑顔が消えた。
「・・・誰かに飲ませたいなって思ったのに、誰だか分らない・・・。」
リンがポツリと呟いた言葉はとてつもなく無感情な口調で言われたものだった。
ブラッドに聞こえるか聞こえないかギリギリの音量。
なんとか、ブラッドは聞きとる事ができた。
「ディーとダムにもこの紅茶、飲ませてあげたいかも。」
その一瞬後、リンの笑顔いつものニコニコ笑顔に戻っていた。
仮面の下に隠している素顔。
それはいったい何のだろうか。