止められた時計
□3章、玩具
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「こんにちは、僕はトゥイードル=ディー。」
「僕はトゥイードル=ダム。」
使用人に呼びに行かせた双子がようやく来た。
どうせ、どこかでサボっていて捕まらなかったのだろう。
困った門番だ。
「こんにちは。ごめんなさい、横になったままで。」
余所者の彼女が申し訳なさそうに言う。
傷はまだ完治していない。
起きあがっては駄目だと医者から言われたのだ。
「ねぇ、お姉さんの名前は?」
「何?何?」
双子が興味津々と彼女に詰め寄る。
それに彼女は困った顔で微笑んだ。
「ごめんなさい、私、記憶喪失なんだ。」
「ええ!?」
「記憶喪失!?」
双子は盛大に驚きの声を上げた。
「ホントなの、ボス?」
「ホントなの?」
なぜかそこで双子はブラッドの方を向き、尋ねてきた。
「そうらしいな。お嬢さんの演技というわけではなかったら、な。」
ブラッドはにやりと笑って、彼女へと目線を向ける。
「演技?演技じゃないですよ。こんな演技をして何の得があるんですか?」
あはは、と笑う彼女。
「そうだな。君は余所者、ハートの城や遊園地の回し者ではないだろうからな。」
そんな彼女に少し辟易しながらブラッドは面倒臭そうに言った。
とにかく彼女は爽やかだ。
ブラッドのあまり得意な人種ではない。
「じゃあ、お姉さんの名前はどうするの、ボス?」
ディーが困った顔でブラッドに尋ねる。
「私は、好きに呼んでくれていいですよ。」
彼女はにっこりと笑って言った。
名前さえ分からないのだ。
そう言いようしかないのが本音だろうが、それを感じさせない。
元よりこんな爽やかな性格なのか、それとも奥に何かを隠しているのか。
ブラッドは後者のような気がした。
「お姉さんって、呼ぶかい?兄弟。」
「お姉さんはもういるじゃないか、兄弟。」
「じゃあ、なんて呼ぶんだい?」
「何て呼べばいいんだろうね。」
勝手気ままに話し合う双子。
こういう話は首を突っ込まない方が得策だと分かったのか、エリオットは黙っている。
エリオットに名前をつけさせてもいいが、ニンジンやらキャロットやらが候補に出そうだ。
それしか出てこなさそうだが。
名前も呼びたくない程嫌いなオレンジ色の名前など下手に付けでもしたら、最悪だ。
一生、ニンジン、ニンジンと言わなければいけないのか。
そうなったら、本当に最悪だ。