止められた時計

□7章、真昼の読書と
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「やぁ、今日も元気に散歩かな?」

今回の時間帯は昼だった。
暖かな日差しが屋敷へと容赦なく降り注いでいる。
ブラッドは眠たいと言うのに、リンは比較的暇な使用人と屋敷内を散歩しているようだった。

「あ、ブラッド。」

貴女に出会えて嬉しいと言わんばかりのニコニコさで、リンは微笑んだ。

「ボス〜。お疲れ様です〜。」

使用人がだるそうに挨拶をしてくる。
主人以上のだるさに、ブラッドは余計眠たくなってきた。

「ブラッドも一緒に散歩しよ!こんな天気の良い日には外に出なくっちゃ。」

この時間帯に相応しい爽やかさでリンが言う。
語尾が勧誘ではなく断定に近い。
リンの中ではすでにブラッドと一緒に散歩する事が決定しているようだ。

「私は眠いんだが・・・。」

無駄だと分かりながらも、ブラッドは反論を試みた。

「眠気なんて、散歩をしていたら吹き飛ぶよ〜。」

さらりと流されてしまった。
こうなっては、何を言ってもブラッドはリンと真昼の散歩をしなければならなくなる。
せめて誘うなら、夜にしてほしかった。
不意にリンが肩から下げている鞄が目に入った。
そう言えば、この前エリオットが本を入れる鞄を作らせてやったと話していた。

「リン、君は読書家なんじゃないのかな?」

唐突に話題を変えたブラッドにリンは、きょとんとする。
それを無視してブラッドは話を続けた。

「最初に見つかった時に本を持っていたし、君はたくさんの知識を持っている。」

ブラッドの言葉にリンは、そう言えば、と頷く。

「それを踏まえての提案なんだが・・・。」

ニヤリとブラッドは笑った。
リンはすでに、こちらの話に聞き入っている。

「私の部屋にはたくさんの本がある。来ないか?」
「行く!」

リンが嬉しそうに笑って、即答した。
本当の意味で気に入っているわけではない人間を、自分の部屋に入れるのは少々不本意だが、それこそ真昼に気に入っていない人間と散歩をする方が嫌だ。
心の中で、ほっ、と息を吐きながら、ブラッドは使用人へと目を向ける。

「もういいぞ。自分の仕事に戻れ。」
「はい〜。分かりました〜。」

使用人はリンから礼を受けながら、下がっていった。

「こっちだ。ついてきなさい。」
「は〜い。」

リンは素直だ。
その分、どこぞの迷子よりは確かに扱いは楽である。
エリオットの言っていたとおりだ。
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