止められた時計
□5章、迷子
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「あり?リンがいねぇ。」
リンの部屋を覗き込んだエリオットが不思議そうに首を傾げた。
確か昨日、医者に軽くなら歩いてもいいと許可をもらっていたから、屋敷の中をうろついているのかもしれない。
エリオットはそう思い、時間もあるので、リンを探して屋敷の中を歩き回った。
しばらく歩くと、キョロキョロと辺りを見回しているリンの姿があった。
「おい、リン。」
呼びかけると、リンは驚いた顔をして振り向いた。
「あ、エリオットさん。」
リンはいつも通りのニコニコ笑顔でエリオットを迎えた。
「何やってんだ?」
パジャマ姿で歩きまわるリンに少し呆れながらエリオットは尋ねる。
「・・・えーと、お医者さんから、屋敷の中なら出歩いても良いと許可をもらったので、お屋敷の中を散歩してたら・・・。」
リンが少し申し訳なさそうな顔をした。
「したら?」
エリオットは嫌な予感を覚えながらも先を促した。
「道に迷ってしまいました・・・。」
リンから予想通りの答えをもらったエリオットは、呆れ過ぎてどう返答をすればいいのか、迷ってしまった。
こう爽やかな人は方向音痴という法則がこの国にはあったのだろうか。
「あ、でも、案内はけっこうですよ。エリオットさんもお忙しい事ですし、自力で頑張ります。」
「いや止めとけ。俺は今時間があるから案内してやる。」
リンの言葉にエリオットは即座にそう提案する。
このまま放置していたら、どうなるか分かったものではない。
間違って武器庫や、ブラッドの部屋とかに入り込みそうだ。
そうなったら、迷惑以外の何者でもない。
「よろしいんですか?」
リンが驚いた顔をして、確認してくる。
「良いに決まってるだろ。ほら、さっさとついて来い。」
変なところに入り込まれた後の後始末に比べたら、リンを部屋に送っていく方がよほど労力が少なくて済む。
「ありがとうございます!」
リンは嬉しそうにお礼を言った。
「・・・ちゃんと人の話を聞く分、てめぇの方がマシなんだな。」
エリオットは素直に自分の後をついてくるリンを見て、感心してしまった。
よく屋敷に迷い込んでくる迷子は人の言う事を聞かないし、覚えない。
それに比べたら、リンという迷子は断然マシだった。
「今度、散歩をする時は案内をつけろ。案内がつけれらないほど、俺達が忙しかったら、外出はするな。」
「あ、はい!分かりました!」
エリオットの言葉を素直に聞く迷子。
うっすらと感動さえも覚える。
「よぉし、今日の俺は機嫌がいい。リン、部屋に戻って着替えたら、俺直々に屋敷を案内してやる。」
「わぁ!ありがとうございます!」
笑顔のエリオットにリンは笑顔を返す。