止められた時計
□1章、余所者
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1章、余所者
「ブラッド!」
自分の腹心である男が、屋敷の中に大声を上げて入ってきた。
「すぐに医者を呼んでくれ!」
医者?
腹心の言葉に疑問を覚えながら仕事をしていた手を休め、自分の部屋を出る。
部屋から声が聞こえたエントランスまで歩く間に使用人に医者をすぐに呼ぶよう言いつける。
腹心である男の声には張りがあり、彼が怪我をしているようには思えてならなかったが、彼があんなにも慌てて言うのだ。
大事には違いないのだろう。
面倒くさい事に。
「なんだ、エリオット。」
いつものスタンスである、だるそうな雰囲気でエントランスにいる腹心へと声をかける。
「こいつ、死にそうなんだ。診てやってくれ。」
エリオットの言葉と彼が抱えていたモノにブラッドは顔を顰めた。
気分的には息子が犬を拾ってきた母親の気分だ。
思わず、拾ってきた場所に戻してきなさいと言いそうになる。
「・・・はぁ。」
血塗れの女だった。
美人とは言えない顔立ち。
なんともつまらない普通の少女だ。
「・・・ん?」
しかし、よくよく見てみれば、普通の少女ではなかった。
この感じ、だいぶ前となるが感じた事がある。
「その子は・・・余所者じゃないか。」
呆れてしまったエリオットに心の中で密かに詫びを入れる。
なんとも面白いモノを拾ってきてくれたではないか。
「余所者!?こいつがか?」
エリオットは知らなかったようで、目を見開き女をマジマジと見た。
「そうさ、その子は余所者だ。」
「でも、こいつ、俺の事知ってだぜ!俺の顔見て、『エリオット』って言ったし・・・。」
不思議そうなエリオットの言葉にブラッドも怪訝そうな顔を作り、思いついた事を言う。
「・・・私と同じだったんじゃないかな?」
「え?あの、アリスの元恋人がブラッドと瓜二つだった、つー?」
忌々しい内容だが、ブラッドはエリオットの確認に頷く。
「しかも、お前の場合は顔だけではなく、名前まで同じだったようだな。」
ブラッドのにやにやとした笑いにエリオットは盛大に顔を顰める。
「俺、あんたの気持ちが今、ようやく分かったぜ。全然良い気持ちじゃねぇんだな。」
「当たり前だ。」
ふんっ、とブラッドはそっぽを向く。
内心では良い気持ちだった。
好意を持ってしまうであろう余所者に別の人物に重ねられるなどという体験は嫌なはずがない。
それを人にも分からせてやる事ができるのだ。
面白い。