止められた時計
□1章 雨の中の拾い物
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序章、雨の中の拾い物
「くそっ!何なんだ、この雨は!」
エリオットが雨に降られたのはハートの城で行われた商談の帰りだった。
ついでにアリスと話していたのが悪かったのか、ハートの城を出てすぐに雨が降り出した。
城に戻り、雨宿りをするという選択はエリオットにはなかった。
アリスといるのは楽しいが、ハートの城には長居したくない。
それに、まだ仕事が溜まっている。
早く帰ってしなくてはいけない。
仕事をしない上司がいるのだ。
自分が頑張らねばいけない。
その仕事をしない上司が気に入っているから、頑張れるのだが。
「それにしても、ホントに何なんだ?普段雨なんてルールに引っ掛かりでもしなきゃ、降らないってのに・・・。」
誰かがルールに引っ掛かりでもしたのだろうか?
いい迷惑だ。
「何処の誰だがしらねぇが、ぶっ殺してぇ。」
思わず思考が物騒な所にいってしまう。
しかし、エリオットはマフィアのナンバー2だ。
それが正常な思考とも言えるだろう。
「とにかく、早く帰ろう。」
エリオットはけっこうなスピードで道を走っていたが、さらにスピードを上げた。
もうずぶ濡れではあるが、これ以上濡れたくなかった。
「あぁ?」
その時、だった。
エリオットの目の前にそれが現れたのは。
雨で視界が悪い中、良く見ないが、人のようだ。
人が道のど真ん中に倒れている。
「なんだぁ?誰かがここでヤッたのか?」
ヤるの漢字はもちろん殺るである。
こんな道のど真ん中に死体を放っておくなど邪魔な事をする。
いくら死体が時間が過ぎれば時計になるとは言え、なる前では邪魔以外の何物でもない。
「しかも、女じゃねぇか。」
ドンッ
死体と思わしきモノの目の前に来たエリオットは、無造作にそれを蹴った。
うつ伏せになっていたモノが仰向けになる。
この世界では珍しい美人という顔立ちではなかった。
普通の女の子。
それしか言いようがない容姿。
「ん・・・。」
蹴られたショックで気が戻ったのか、女が身動ぎをした。
「なんだ、死んでなかったのかよ。」
エリオットがつまらなさそうに言う。
しかし、死んでないとはいえ、雨に流されない程の失血量だ。
もう長く持たないだろう。