青祓Short

□本懐〜Regret Love〜
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「ひっ・・・!?や、やめてくれ・・・・・」

左側だけが白髪の眼鏡をかけた中年男性。50過ぎぐらいだろうか。

「別に暴力なんか振るわんよ。とりあえず、名前、教えてや?」
「とっ、藤堂・・・・・」
「下は?」
「ひっ・・・・・さぶ、三郎太・・・・・」

藤堂三郎太。確か日本支部最深部部長では無かっただろうか。・・・・・そして、元祓魔塾講師。

「・・・・・そ、そちらは?」
「彩音。土御門
彩音。」
「土御門・・・?もしかして明陀宗の?」

上位の祓魔師は私の苗字を聞くとすぐにこの反応を示す。何故なら貴重な真神使いの家系の生き残りは私だけだからだ。

「・・・・・明陀なんて私にとってはどうでもええねん。」
「は?・・・・・んぐっ!?・・・・・んっ!?」

私は藤堂の頭を片手でぐっと引き寄せ口を塞いだ。煙草のような味がする舌を食んで舐め回す。大の大人が情けない声を上げてしがみつく様は滑稽でもあったが、それに合わせて安心させるように抱き締めた。

「・・・・・っはぁ・・・な、な、何を・・・・・!?」
「・・・・・聞きたいことがあんねん。」

藤堂はようやく自分の首に何が当てられているのかに気づいた。それはアウトドアなどに使用されるナイフだ。首にぐっと押し当てると血が一筋垂れる。

「・・・・・!?!?」
「騎士団は何を隠してる?」
「し、知らな・・・・・」
「とぼけん方がええで?



あんた、さっきからチラチラ悪魔の匂いさせよって。悪魔堕ちしとるんやろ?」

ポケットからは煙草の箱もライターも出てこなかった。服からも煙草の匂いはしない。独特の苦みと、一瞬涙目の藤堂の奥に感じた違和感。巧妙に隠しているが、悪魔堕ちしている。

「・・・・・ククク、まさかこんな簡単にバレるなんてなぁ。」
「犬は鼻が利くんやで?・・・・・あっ、変なこと考えん方がええよ?それにあんたのこと、誰かに話す気もないんやから。」

垂れたうさぎの耳のようなものが生え、口調も目つきも変わる藤堂に牽制しておく。そう言うと同時に、私の背後には3体の真神が現れる。

「うちらと、そっち。どっちに勝算があるかなんて分かるやろ?」
「・・・・・確かにそれもそうだ。いいよ、何が聞きたい?」
「正十字騎士団は何を隠しとんねん?」
「・・・・・それは深部にあるもののことかな?」

深部にあるもの?何のことかは分からないが、私は黙って頷いた。

「・・・不浄王の左目。」
「不浄王!?」
「君も知ってるんじゃないかな。明陀宗の開祖不角が討伐した、と言われている悪魔だよ。」

私が聞いていたのは、明陀の祖である不角が不浄王を討伐した際に、右目だけが残ってしまい、以来それを封印するのが明陀の務めとなっているということだ。しかし、左目もあるという話は聞いたことがなかった。つまり明陀の元々の話が違う・・・ということなのか。

「・・・・・ほんまに左目があるん?」
「はは、その反応、昔宝生くんにも同じことを言われたよ。」
「宝生・・・・・て。まさか。」
「宝生蝮だよ。君もよく知ってるはずだ。」

宝生蝮・・・・・。あの女はこのことを知っている・・・・・?ぎりっと唇を噛み締めると、藤堂は目を見開いた後喉の奥で笑った。

「いい顔をするね・・・・・。彩音くん、どうだい?僕と組まないか?」
「・・・・・あんたの目的は、何やねん。」
「不浄王の復活、さ。」
「不浄王の復活・・・・・てそないなことしてどうするんや!?」

私の問いには答えず、藤堂は先程とは思えない力で私を抑え込むと硬いコンクリートの床にねじ伏せる。

「・・・・・これ以上は言えないなぁ。かなりの情報を教えたんだから、それなりの対価をもらわないと。」
「対価って・・・・・こっちはまだあんたの言っとることが真実かどうか分かっとらんのにか?」
「・・・・・日本支部最深部部長が、悪魔堕ちしているというだけでも大きい情報だと思うけどね。」

悪魔堕ちならまだ可愛いものだ。こっちはサタンの炎を使う者がいる証拠があるのだ。私が何も言わないのを見て、藤堂は押さえ込んでいた手を離した。

「・・・・・まったく、随分余裕じゃないか。君はどこの部署の人間なんだい?」
「部署?・・・・・あぁ、私祓魔塾生ですよ。」
「生徒!?・・・・・いや、失礼。どう見ても成人に見えたもので。」
「藤堂さんとは40歳前後、歳が離れてますよ?下手したら親子ですやん。」

悪魔の耳が引っ込んだ藤堂は、ぎょっとしたようにこちらをまじまじと見る。こうして見ると人の良さそうなおじさんなだけに、とんだ狸爺だと思う。

「・・・・・藤堂さん、さっきの話ですけど。あなた1人でこれを計画しとるわけやないでしょう?」
「それは秘密だね。・・・・・君が協力すると言うなら教えるよ。」
「・・・・・私は、明陀と騎士団の隠している秘密を知りたい。そのために必要な協力ならしますけど、不浄王復活の実行犯にはなりませんよ?」
「・・・・・まぁ今はそれで良しとしようか。」

藤堂は私の耳元である団体の名前を呟いた。呆然とする私に藤堂はニヤニヤと笑った。

「・・・・・それ、ほんまなん?」
「あぁ、本当さ。君がちゃんと協力してくれたら、本部にも紹介してあげるよ?・・・・・きっと君の知りたい情報にも繋がるはずさ。」

そのまま歩き去ろうとする藤堂の袖を掴んだ。

「・・・・・連絡先。」
「まさかこんな若い子にアドレスを聞かれる日がくるなんてね。」
「はぁ!?そういう意味ちゃう・・・っ!?」

私の携帯に電話番号を打ち込んだ藤堂は、携帯を手に握らせながら私の唇を奪った。慣れた舌使いに、さっきまでの初々しさも演技だったことに気づく。

「・・・・・彩音くんはとても甘い味がして、何度もしたくなりますね。」
「なっ、こんの・・・変態!!」

アハハと笑いながら私の蹴りを避けた藤堂は、闇の中に消えていった。

啓明結社イルミナティ。彼は都市伝説まがいの結社の名前を出してきたことに驚いたが、不浄王の復活など考える時点でありえない話ではない。もしかして奥村燐と同じくらい重大な秘密を知ってしまったような気がして、私はしばらくその場から動けなかった。
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