青祓Short

□本懐〜Regret Love〜
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「・・・・・おめでとうございます☆」
「・・・・・いや、誰なんですか。」
「私です☆」

カードをヒラヒラとさせる理事長の手を見ると、「メフィスト」と書いてあった。いや、字汚っ・・・。それよりも何でよりにもよって理事長が3名の中に入ってるんだ。

「うーん、何となく思いつかなくて私の名前を入れておいたのですが。これはもう運命としか・・・・・」
「せやったら二択にすれば良かったのでは!?」
「それはつまらないじゃないですか〜」

いぇーいと騒ぐ理事長に溜息をつく。付き合ってられない。席を立つと、肩を押さえられて再び椅子に沈み込む。

「よし、この際私のパシ・・・お手伝いでもしてもらいましょうか☆」
「パシリですよね?」
「まぁそうとも言います。」

手伝いが必要になったら呼ぶから、それまでは気楽に候補生生活をエンジョイしろと言われた。執務室から出ると何度目になるか分からない溜息と、理事長には逆らえないという諦めに、これからどうしようか悩んだ。

その日は帰っても寝つけそうになかったので、同室の人が寝ているのを確認した後、静かに部屋の窓から外に飛び降りる。マカミに頼んで屋上へと出ると、ふかふかの毛によりかかって星を眺めた。

「・・・・・都会だけど星は変わらんね。」
『・・・・・!?ワンッ!!』
「ん?どうした・・・・・!?」

何かの気配を察知したマカミが1点を見つめて吠えた。起き上がり向こうを見ると、何か黒い影が蠢いていた。・・・・・場所は旧男子寮だ。

「・・・・・マカミ、気づかれないように近くまで行こう。」

その背に飛び乗ると、マカミは建物の屋根を音もなく飛び移っていき、目視でそれが何か分かる距離まで近づいた。

「・・・・・奥村先生、とネイガウス先生!?」

巨大な屍人を使役しているネイガウス先生と奥村先生が交戦していた。奥村先生が防戦一方なのに対し、ネイガウス先生は余裕の表情だ。押され気味だった奥村先生の助けに入ったのは、奥村燐だった。

「・・・・・嘘やろ。なんで青い炎が!?」

私の両親、子猫丸の父親、廉造の兄、竜士の祖父を殺した、青い炎を奥村燐が操っていた。頑なに抜かなかった剣を片手に立つ奥村からは尻尾が生えており、その姿は悪魔そのものだった。頭がガンガンと痛くなり、私はぐらりとその場に座り込む。

「・・・・・何なん。どういうことなん。」

私は震える手で携帯を取り出すと、青い炎を纏う奥村燐を写真に収めると気づかれないように寮まで戻った。部屋に入ったはいいが、脳裏にチラつくのはあのサタンの炎だった。奥村はサタンと関わりがある、間違いない。

(なんでサタンに関わる者が祓魔塾に居るん・・・・・!?)

とにかく証拠を残しておかなければ。私はパソコンを立ち上げ、先ほどの画像を携帯から転送してファイルに保存した。恐怖のせいか、こみ上げてくる吐き気に襲われながら寝れない夜を過ごした。

次の日塾で私は誰とも話さなかった。元々人と話す方でもなかったし、候補生昇格のお祝いに行くというみんなには体調不良を理由に着いていかなかった。代わりに校舎にあるPC室に行くと、騎士団のデータベースを調べた。

奥村兄弟は前聖騎士である藤本獅郎の元で育ったことは知っていた。奥村燐がそんなことを話していたからだ。彼の経歴に南十字男子修道院院長の文字を見つけ、住所をメモする。亡くなったことは聞いていたが、ちょうど私達が入学する頃である。

(・・・・・16年前の青い夜、奥村兄弟の入学時期に突然死んだ藤本獅郎、サタンの炎・・・・・騎士団は何かを隠してる。)

もともと青い夜に関しては疑問しか抱かなかった。あれだけの虐殺を、なぜ16年前のあのタイミングで起こしたのか。あれ以降起きていないのは何故か。それを知るためには、大量の祓魔師をまとめている正十字騎士団のトップ、聖騎士になるしかないと思っていた。でも、全て騎士団も一枚かんでいることだとしたら。

(・・・・・ダメだ、情報が足りない。確信が持てることは奥村燐がサタンに関わっていることだけや。)

データベースの更に深くまで入ることも可能だが、足がつく可能性がある。・・・・・だとすれば、人に聞くしかない。

「・・・・・今日は金曜、夜になれば誰かしら祓魔師が見つかるはず。」

部屋に戻って制服を脱ぎ捨てると、引き出しからあるものを取り出し、屋上で暗くなるのを待った。正十字学園街でも、あまり治安の良くないところはある。呑み屋が多くあるところを歩いていると、中年の男が酔っ払った不良に絡まれていた。

「何だよぉ〜?金ちょっと貸してくれっつってるだけじゃんかなぁ〜?」
「ひっ・・・・・お、お金なんかないですって・・・・・」
「あぁん?お前エクソシストだろぉ?公務員なんだから金あるだろ?」

・・・・・気弱そうだが、どこか見たことある顔だ。私はその不良に絡まれている男の肩に手をかけた。

「・・・私のツレに何か用?」
「あぁん!?・・・・・うーわ、おっさんこんな美人連れてたのかよ。」
「君名前は〜?ちょーかわいいじゃん?」

挙動不審になる男に任せてと微笑むと、場所を移そう?と不良に提案した。幸い近くには廃屋がたくさんある。不良含む5人で人気のないビルの中に入る。

「なぁ〜姉ちゃん、こんなところ連れてきてどうなっても知らないよ〜?」

人の腰を撫で回す男の手を握ってニコッと微笑むと、男が顔を近づけてきた。

「・・・・・それはこっちの台詞や。」

ボキッという音と共に男の腕が変型する。途端に絶叫する男に、仲間の不良も襲い掛かってくる。しゃがみ込んで足を蹴っ飛ばすと、再び痛々しい音が響き渡る。最後の1人が逃げようとしたのを私は捕まえた。

「ヒィッ!?た、頼む見逃してくれ・・・!」
「・・・・・は?」

膝を男の腹にめり込ませると嘔吐しながらそいつは失神した。絡まれていた男は腰が抜けたようで座り込んで震えていた。

「・・・・・何怯えとんの。悪魔よりかは怖ないやろ。」
「た、た、助けてくれたことはありがとう・・・・・それでは・・・・・」

座ったまま後退する男につかつかと歩み寄ると、その男に馬乗りになった。
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