さよならの花束を君に (完)

□深海の悪魔 ※選択
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「おーい!おーい!洋平ーっ!」

ボロボロのイカダに乗った、これまたボロボロな男性がこちらに向かって手を振っていた。私はその男性の元へ向かい、エイの上に乗ってもらった。

「もしかして・・・洋平くんのお父さん?」
「ええっ!?」
「・・・・・うん?・・・・・親父?親父っ!!」

意識が戻った洋平くんが、お父さんに駆け寄り、一体どういうことなのか疑問に思いつつ岸へと戻った。

岸には椿先生もいて、もしクラーケンなら退治するための準備が必要だから調べていた、と言っていた。

「ちょっと待ってください。私聞いてないんですけど?」
「いやぁ・・・・・もしもの場合でも零くんなら楽に倒せると思ってね。」
「・・・・・チッ。」

ふざけたことを言う椿先生に、うっかり舌打ちが出てしまい慌てて口を隠した。が、燐には聴こえたようでぎょっとしていた。

このクラーケンは安全らしく、洋平くんのお父さんと海を旅している内に絆が芽生え、ここまで戻ってきたらしい。親子の熱い抱擁を見せつけられて、これはこれで一件落着だと感じた。が悪魔でも改心することを教えたかったという椿先生に、ただの職務怠慢では?としか思えなかった。


次の日の朝、荷物をまとめて帰りのバスを待っていると、犬を連れた洋平くんが見送りに来た。出雲ちゃんが彼と話しているのを、私達は遠目で見守っておいた。戻ってきた出雲ちゃんがややショックを受けた顔をしていたが、犬の顔を見て何となく察してしまった。

バスに乗り込み、窓を開けて潮風を感じていると、風に乗ってまたコールタールが近寄ってきた。みんなに気づかれないように消すと、窓を少し閉めておいた。

また明日から学校が始まることに憂鬱ながらも、平凡な日常が恋しくもある。車の揺れと柔らかな風に私は学園に戻るまで、眠ってしまったのだった。
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