雄英高校で学校生活を送る。
□第1章
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午後も無事に終わり、下校の時間。私は相澤先生に呼ばれていたため、職員室を訪ねていた。内容は私にとってとても重要な事だった。
『え⋯?相澤先生、本当ですか!?』
「本当だ。わざわざメッセージまで送ってきた。」
何の事だろうと思っているみんな!説明するね。
この世界には数多くの敵(ヴィラン)がいる。その1人を私はプロとしても、個人としても追っていた。そいつの名前は“ クロハ”。前世の世界で倒した筈なのだが何故かこの世界に存在していた。
まあ色々あって今もクロハを恨んでいる私は彼を倒すためにプロのヒーローになったと言っても過言ではない。まあ、オールマイトに誘われたってのもあるけどね?あとお金。これ大事。
『そのメッセージは⋯』
「これだ。お前には特別に見せるが、他言するなよ。」
『勿論です』と頷く私の視線はパソコンの画面に。
「久しぶりだなぁ“ 操る”。もとい見切もへ。ククク⋯今世でも名前は変わらずか。とんでもないチート人間になったようだなぁ。俺はあの身体能力をまだ有している。そして俺は他の目の能力を手に入れる。⋯⋯賢明なお前なら、この意味が分かるよな?」
一拍を置いてクロハは続けた。
「お前を殺し、全ての能力を手に入れる。それだけだ。じゃあな。」
プツン、と画面は真っ暗になった。なんて一方的なんだ。
ぐっと手を力いっぱい握り下を向く私に相澤先生は問うた。
「お前、クロハと面識があるな?」
ハッと顔を上げれば、真剣な顔の相澤先生。コクリと頷く。そうか、と呟く先生は私に深く聞いてこなかった。
「分かってはいると思うが、気をつけとけよ。いつ相手が襲ってくるか分からん。」
『⋯はい。失礼します。』
職員室を出て教室へ行くと、当然のようにガランとしていた。いつもはあんなに賑やかなのにな。
かたん、と窓際の自分の席に座り、夕焼け空を眺める。1人の教室がこんなに寂しいなんて。アヤノお姉ちゃんもこんな感じだったのかな。
『あっはは⋯まだ引きずってるとか⋯⋯。』
ぽたぽたと頬を伝う涙は、生暖かかった。こんなに前世の事を思い出すのは何時ぶりだろう。考えないようにしていただけで、私自身はまだ心の整理が追いついていなかった。私が1番思うのは、
『なんで⋯私だったんだろう。』
何故自分だったのか。ポツリと呟いた声は静寂に消えていった。
幼少期は酷い扱いを受けた前世だったが、その後はとても楽しかった。今も楽しいが、何処か心にポッカリと穴が空いているような感じだった。
優劣を付けるような事ではないと思うが、一番はやはり彼氏であるカノに会いたかった。
⋯⋯⋯もう会えないけれど、歌っている時なら皆と一緒に居られるような気持になるから。
『ビパップな浮遊感〜〜♪』
1曲歌うと次から次へとみんなの事を思い出して歌う。どうせ教室には私しかいないと思ったのもあった。前前世で聴いていた曲。全て覚えていた。メジャーな曲からちょっとマイナーな曲まで。
そうして歌った最後は。
『〜〜♪何度でも描こう〜〜♪』
泣きながら、でも気が済むまで歌った。少しの放心状態。
すると、カタンッと音が聞こえた。急いで振り向くとそこには、
「もへちゃん⋯」
『梅雨⋯ちゃん⋯』
どうやら梅雨ちゃんに歌を聞かれていたらしい。
彼女はゆっくり近づいてくると、私を抱きしめた。
「ごめんなさい、最初から聞いていたの。泣かないで、もへちゃん。」
『梅雨ちゃん⋯ありがとう。』
あぁ、本当に友人に恵まれているな。その嬉しさに今度は違う意味で涙が流れる。
でも笑わなきゃ。そんな思いで私は梅雨ちゃんを“欺く”。
『ありがとう、梅雨ちゃん。私は大丈夫だから。』
へラリ、笑顔を浮かべるが梅雨ちゃんの表情は厳しくなる。どうしたのだろうと思っていると彼女は言葉を発した。
「それが“欺く”?無理しないで良いのよ?」
ケロ、と語尾に彼女らしい言葉を繋げながら私の頭を優しく撫でる。
『⋯そうだよ、これが“欺く”。騙し絵みたいな感じなんだ。』
「ケロ、不思議な力ね。」
深く入ってこない梅雨ちゃんとの会話は楽しくて、私は自然と笑顔になった。それを見た彼女は『その顔、好きよ。』と言ってくれた。
『梅雨ちゃん、大好き!』
「ケロケロ。嬉しいわ、もへちゃん、私も好きよ。」
その日は梅雨ちゃんと一緒に帰った。別れ際に「もへちゃんの歌と声、素敵ね。また明日ね。」と言ってくれた。とても嬉しく、その言葉を噛み締めた。