何度も君に恋をする
□君に初めて恋をする
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『あの、あたし荷物見てるよ』
その一言でざわついていた空気がピタリと静まる。小さく驚いている子もいれば、気に入らないと言わんばかりに眉根を寄せている子もいる。勿論、あからさまに嬉しそうな子も。
「真白さん、お願いしてもいいの?」
『うん、あたしここにいて荷物見てるから。皆行って来て良いよ』
「ありがとう!」
『ここじゃ場所取るから、上の席に移動してもいい?他の人もたくさんいるし』
「あ、じゃあ自分の鞄は持って上がるね。ごめんけど…」
「いいんじゃなーい?真白さんが勝手に一人で留守番して勝手に場所移動するって言うんだからっ」
「え…?」
「ほら、皆いこ。真白さんに任せればいいから」
「でも…」
何人かの子は自分の鞄を持って行ってくれようとしたけれど、それを止めたのは今日の試合にお兄ちゃんが出ているというリーダー格の子だった。
置き去りにされた鞄をいくつか持って上の方の席へと移動する最中、前の方を歩く子達がわざと大きな声で喋るのが聞こえた。
「なんかさー。真白さんって、ああいう態度むかつくよねー」「聞こえるよー」「誰?今日誘ったの」
誘ったのはあなたでしょ。何で自分のことばかり考えて周りの迷惑とか考えないんだろう。荷物だってこんなに広げて自分だけのスペースじゃないのに。
一人で荷物を移動させた後はいつの間にか始まっていた試合を見ていた。とは言え、ルールが分からないから全く楽しくなくて。3DSでも持って来ておけば良かった、と後悔しながら座っていた姿勢を少し崩した時だった。
「ドンマイドンマイ!もう1本!!!」
『……』
色んなチームの割れんばかりの大きな歓声や、ボールの跳ねる強い音や床を蹴るシューズの摩擦する音が交わる中で一際鼓膜を震わす一つの声があって。
弾かれるように顔をハッと上げたと同時に、無意識にしゃんと伸びた背筋。こんなにも人がたくさんいるのに、あたしは一瞬でその声の主を見つけていた。