何度も君に恋をする

□君に初めて恋をする
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昔から、沢山人がいる所とか人付き合いというのは苦手で、基本的には今と同じで一人でいることが多かった。

だけど今みたいに人との距離の置き方を知らなかったあたしは、あの日に酷く後悔していたことを何となく覚えていた。



「見て見て!あの人かっこいいよー!!」

「どの人!?」

「わー!ほんとだ!」

「真白さんも見て!あの人だよ!!」

「あ、お兄ちゃんいた!」

「えー!どこどこ!?」



クラスの女子のお兄ちゃんは昔からバレーをしていて、背が高くて運動神経抜群のいわゆる『かっこいい人』らしい。中学生になってから初めての試合に出るのだと隣の席で数人の女子が盛り上がっていた。

そんな話題、勿論興味も無かったのだけれどクラスのリーダー的な女子の言うことは絶対的な雰囲気の中、断ることが出来なかった。「皆でバレーの試合見に行こうよ!」という最大に面倒臭いイベントを。

観戦席でクラスの子が下のコートであちこちに動き回る一人の選手を指差して盛り上がるけど、誰が誰だか分からない。ユニフォームの色と背番号を言って貰わないと。あの人がお兄ちゃん、あの人が上手くて有名な人。皆が騒ぐ中、あたしは既に話題について行けずにいた。

人も分からなければ、ルールも知らない。だから、体育館いっぱいに響く歓声も楽しさも理解出来ず。ぼんやりとボールがコートを移動しているのを眺めていた時だった。


「ねえ!下で見てみようよ!ここよりも近いよー」

「賛成!」

「私、トイレ行きたいな。飲み物も欲しいし」

「えー。じゃあ荷物置いて行った方が良くない?」

「そんなことしたら危ないよー」

『……』


一人一人が思いのままに好きなことを言うものだから、意見がまとまらずただ騒がしくなる一方だった。ほら、試合前の練習も終わりそうだし他の人達も迷惑そうに見てるじゃん。何でこういう雰囲気に気付かないんだろう。

やっぱり、面倒臭い。来るんじゃなかった。思いきり溜め息を吐き出すか、今すぐにでも帰りたい気持ちをお腹の底にグッと落とすと、あたしは息を吸い込んで口を開いた。
 
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