何度も君に恋をする
□揺らぐ心
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「あー、よく寝た。昼寝最高」
「いや、ほんとマジで眠たいわ」
「ノート全くとってない」
「あはは!ほんとそれ!!」
授業が終わり先生が教室を出た後、それまでの静けさが嘘のように騒がしくなる空間は未だに苦手。隣の席ではずっと寝ていた女の子達があくびをしながら気怠そうに話す。
次の最後の授業が終われば今日は終わり。次は英語か、と机の中から教科書とノート、電子辞書を取り出していると前の席から声を掛けられた。
「紬…」
『何?』
「さっきの授業、何ヵ所か聞き逃したところがあって。ごめんけど、ノート見せて欲しい…」
『……』
あたしの中には一人で生きてきた中での絶対的ルールがあって、その一つにノートを人には見せない、というものがある。
人の邪魔にならなければ授業中寝ていても構わないけれど、あたしだって眠たくなる時も勿論ある。だけど、眠気を我慢してノートをとったりまとめたりする訳で。
それを授業中に眠たいからという理由で寝ていた人に『はい、どうぞ』と見せる優しさなんて、あたしは持ち合わせていない。
だって、あたしには。
「あ、いや…。嫌なら大丈夫…」
『……』
「ごめん、」
あたしには、トモダチなんていない。
そう思ってたのに。小声で申し訳なさそうに謝る研磨を見て、胸の奥がチクリと痛んだような気がした。今まで感じたことのない痛みに喉の奥で声が詰まる。
両手でノートをぎゅ、と掴んだままの研磨が静かに前を向こうとした時、ようやく絞り出した声は情けない程に小さくこぼれ落ちた。
『け、んま…っ』
「?」
『あたしのノートで良かったら…』
研磨は一瞬目を大きく見開くと「良いの?」と聞き直すから、こくりと頷く。初めて見る人のノートはどこか新鮮にも思える反面、あたしのノートなんかで良いのだろうかと不安がよぎる。
見えやすいように自分のノートの向きを逆さまにしていると、研磨のノートに大胆に右斜め上に走るシャーペンの痕を見つけた。