何度も君に恋をする
□たたかう、アイテム、にげる
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『はぁ…。終わった…』
ようやく顔を上げた時に教室がほぼ真っ暗なことに気が付いた。バイトがないこととホームルームが終わる頃にイベントが始まることが重なって、帰らずにそのままゲームタイムに突入していた訳ですが。
外は暗いし、勿論生徒の影も気配もなし。黒板の上を見上げるけど、時計も見えない。さて、今何時だろう。
スマホで時間を確認しようとした時、廊下の方から足音が近付き思わず手が止まる。
「誰もいませんか…うわあっ!!!」
『っ!!』
「あ、あー。驚いた。まだ生徒さんいたの?」
『あ、あの。すいません…』
暗闇に懐中電灯の光が一筋さしていて、ぼんやりとその明かりが警備員さんの姿を照らしている。
まさか生徒が残っているとは思っていなかったのか、結構驚いている様子が声色だけで分かった。あたしも唐突な出来事に驚いてはいるんだけれど。
「ごめんごめん、まさか生徒さんがいるとは思わなくて驚いちゃったよ。早く帰りなさいよ?」
『はい…。あの、今何時ですか?』
「えっ?もう八時になるよ?時間忘れるまで何してたの」
『…え、と』
まさかゲームをしていて時間を忘れていました、なんて言えず。気まずくてそっと立ち上がったあたしはいそいそとリュックを背負って帰り支度をする。
小さく頭を下げて教室を去ろうとすると、「ああ、待って」と優しげな声色があたしの足を止めた。
「もう暗くて危ないから、下まで一緒に行こう」
『い、いえ。大丈夫です…。お仕事の邪魔しても悪いので…』
「わはは!何言ってんの!これも私の仕事だから良いんだよ。さあ、行こう」
『す…。すいません…』
申し訳ない気持ちでいっぱいになっていると、一瞬、懐中電灯の光が警備員のおじさんの顔を仄かに照らして、優しげに細めた目元の小さなしわが見えた。
よく見ると警備員さんの制服って見るだけで頼りがいがあるなあ、と思いながらその背中について行くと、あっという間に下駄箱に到着した。