何度も君に恋をする
□置いてけぼりのスマートフォン
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今年の梅雨はよく雨が降るとニュースで言っていたけれど、空が壊れてしまったのではないかと思えるくらいによく雨が降る。
週間天気予報は雨マークばっかり。降水確率は90%と100%ばかりが並んでいた。
だから今日も家を出る時にビニール傘をさして登校したのだけれども。放課後になって下駄箱でスニーカーに履き替えたあたしは、傘立ての前で絶望していた。
『ない…』
どこを見てもあたしの傘がない。こういう最悪の事態を逃れる為にわざわざ持ち手の所にシュシュを巻いていたのに、それでも盗まれるなんて。朝から雨降ってたから、傘をささずに登校した人なんていないだろうに。
どうしてもクリアしたい時間ダンジョンがあったから、放課後しばらくゲームをしていたのが敗因かもしれない。
もっと早く帰ってれば、傘盗まれなくて済んだのかなあ。下校の波が静まった下駄箱はいつもより広々として見えた。傘立てには何本か傘が残っているけれど、これを借りたら誰かが濡れてしまう訳で。
『(やむ気配はなし、か…)』
知らない誰かみたいに傘を盗むなんて出来ず、とりあえず屋根のある場所まで出てはみたけど酷い雨だった。いつもなら向こう側に見える校門すら見えない程に激しい雨が降り続いている。
走って帰ったとしてもずぶ濡れは確定。教科書は乾かせばいいし最悪置いて帰ればいいけど、PSvitaとスマホはそういう訳にはいかない。
どうしよう。どうしよう。…ああ、面倒臭いなぁ。
無くなった傘のこと、どうやって帰るかとか、明日の英語の小テストのこと。色々考えることはあったけど、鳴り止まない雨音が全部飲み込んでしまう。思考が停止する。
入り口の大きな柱の側でしゃがみ込んだあたしは膝に顔を埋めてしばらく過ごすことにした。いつか少しでも雨が弱まるタイミングがあれば。
なんて、目を閉じていたから気付かなかったんだ。
「やっべ、遅れるー」
下駄箱に慌てて駆け込む足音や、靴が地面に落ちる音に。
あたしの隣に、人が立っていることに。