何度も君に恋をする
□甘さも痛みも飲み込んで
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「真白さん!お疲れー」
『あ…。お疲れさまです』
あの日から黒尾先輩はあたしのバイト終わりには必ず店の前で待つようになっていて、今日もバイト先の自動ドアをくぐるとガードレールにもたれ掛かっていた。
いつもと変わらない黒のTシャツに赤いジャージのズボン。一日暑い体育館で部活して、きっと疲れている筈なのにわざわざ迎えに来てくれる。あたしなら即家に帰りたいと思う。
連絡手段のないあたし達は毎回バイトのある日と時間を教えては、黒尾先輩がいつか来なくなるだろうと見込んでいたのだけれど。
「ねえねえ、真白さん。俺腹へったー」
『いや、あの…』
「マック行こうぜ、マック!本当は魚が食べたいとこなんだけど」
『魚…?』
「俺の好きな食べ物、サンマの塩焼きだからさー。知ってる?ドコサヘキサエン酸ってめっちゃ体にいいの」
『…へぇ、』
「いつか真白さんの作ったサンマの塩焼き食いてえなー」
『……』
好きな食べ物とか、ドコサ何とか酸とかどうでもいいけど。とりあえずシャツの裾引っ張るのやめて欲しい。背中とかわき腹が見えてしまう。
黒尾先輩の親指と人差し指で軽く引っ張られたままのシャツに気を取られる。
「で、どうする?マック行く?」
『いや…』
「マック行ったらアップルパイあるじゃん!」
『アップルパイ…!!』
「はい、決定!!いこー」
『(はっ…!!)』
最近食べていなかったからか、アップルパイという単語に一瞬心が揺らいだのがバレてしまったようで。気付けば背中をぐいぐいと押されて帰り道とは逆の方向へと連行される。
帰ってお風呂に入ったら寝るまでの間、ゲームをする予定だったのに。
そのうち、部活で疲れてしまってあたしのバイト先なんか来なくなると思っていたのに。毎回飽きもせずにガードレールにもたれ掛かっている黒尾先輩をバイト終わりに見る光景に慣れてきて。
気付けば八月も中旬。夏休みが半分終わろうとしていた。