*FF15夢小説*


□Valentine Day
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ここは王都の執務室。
マリンはここで王都の執務官として働いている。幼い頃から王都で働いてきたのでノクト達とは仲が良い。


―――そんな私が最近困ってるもの…










【Valentine day】





「おっはよーマリン!」

「あっプロンプト!!良い所に!あのね、相談があるの!」


朝から元気よく声をかけて来たプロンプトにこちらも負けじと詰め寄る。


「な、なに?」


プロンプトの困惑した表情を見て、一瞬打ち明けるのは躊躇われたが、マリンは首を横にぶんぶん振って不安を脱ぎ払う。それを端から見ていたプロンプトは思わず笑いがこぼれた。


「マリンはいつも面白いなぁ、どうしたのさ?」

「あ、あのねプロンプト!」

大きく息を吸う。

「バレンタインデーどうしたらいいか教えて!!」


・・・・・・


「へ?」


幼い頃から仕事一筋だったマリンは、公務に必死でイベントなど意識したことがなかった。たまたまバレンタインデーの特集の放送していたテレビを見て普段お世話になっているみんなに何かしてあげたいと思いついたらしい。


「マリン、バレンタインデーは女の子が好きな男の子にチョコレートをあげる日なんだよ」

「ええっ!?チョコレート?」

「手作りだと喜ばれるかなぁ」

「手作り!?」

「本当に好きな人だけに作ってもいいし、義理チョコって言って普段お世話になった人にもあげていいんだよ!」

「ぎりチョコ…」


今まで料理なんてまともにしたことがない マリンは頭を抱えた。


手作りでたくさん作らなきゃいけないなんて…!?


「おはよう、…何をやっているんだ?」

「わあ!?イ、イグニス!おはよう!?」


マリンは心臓が跳ね上がるのを感じた。胸がきゅっと締め付けられるこの声の主…片手にいくつかの本を持ち、眼鏡のフレームを押し上げながら近づいてきたのは、イグニスだ。何をやっているのかの問いかけに対しては一人で悶絶しているマリンに特に向けられている。


「あ、イグニスおはよー!ノクトと勉強?」

「ああ、もう終わったところだ。今日も課題をたっぷり出してきた」

「うぅわ、ノクトかわいそー……ん?」


イグニスの顔をまじまじと見つめながらプロンプトは思案げに顎に手を添える。


「なんだ?」

「そうだ!マリン、イグニスにチョコレートの作り方教えてもらいなよ!」

「え!?」


マリンはイグニスとプロンプトの顔を交互に見る。イグニスは何のことだか把握できていないようで怪訝な顔をあらわにしている。対してプロンプトはめちゃくちゃ笑顔だ。笑顔がまぶしい。





―――まずい。





”好きな人にチョコレートをあげる日”だと言うなら、イグニスに真っ先に渡したい。のに、当の本人にチョコレートの作り方を教えてもらうのは意味がないのではないか。どうせあげるならサプライズで渡したいとマリンは思っていた。




―――いや、バレンタインデーとは言ってないし、ただチョコレートを作りたいということにすればいいんだ!




「バレンタインデーにチョコレートを作りたいんだって!」




―――プロンプトぉーーー!!




マリンは顔を手で覆った。


「マリンがチョコレートを?」

「うん!バレンタインデーに何するかも知らなかったんだよ〜、誰にあげるんだろうねーほしいなーほしいなー」


プロンプトは相変わらず笑顔で、後ろに手を組んで左右に体を揺らしている。こちらの気持ちを知ってか知らずがとんでもない提案をしてくれた。知っていたとしたらとんだ悪魔だ。


「……わかった、材料の調達からになるな。街に出るから支度をしてくれ」

「ええ!?」

「だってー!よかったねぇーマリン!チョコレート作れるようになるよー」


足早に歩きだすイグニスの背中を追う マリン。後ろを振り返るとプロンプトが笑顔で手を振っていた。どうしてこんなことに……


街に出ると、いつもより賑やかさが増している気がした。チョコレートの売り場にも人がたくさん押し寄せている。やはり女性のお客さんが多い。これが世にいうバレンタインデーを控えた日なのか…と妙に感心していた。イグニスが持ってくれている買い物袋の中にはチョコレートや生クリームなどがたくさん入っている。そのままでもチョコレートなのに一体何をどうするつもりなのだろう。


「何故今年のバレンタインデーはチョコレートを作ろうと思ったんだ?」


隣のイグニスに声をかけられ体が跳ね上がる。人が多くはぐれまいと密着して並んで歩いているので声も耳元から聞こえる気がする。


「あ、うん、あのね、みんなにいつもお世話になってるから、イベントに何かできたらいいなって思って。プロンプトに相談して、みんなに手作りチョコを作ろうってなって……でもバレンタインデーって本当は好きな人にチョコをあげるものだったんだね」


マリンは少しはにかんだ。こういうことを口にするのは少し気恥ずかしい。緊張してイグニスの顔をまともに見ることができなかったので、歩きながら自分のつま先を見つめている。


「そうか……。しかし礼を言うのは俺たちだ。マリンがいつも身の回りの世話をしてくれているから助かっている」

「えへへ、ありがと」


こうして言葉にして感謝を伝えられると、長い間働いてきた苦労が報われるいうものだ。その為に執務官になったわけではないが、やはり嬉しい。心がじんわりと温かくなるのを感じた。特にイグニスに言われるのは格別だ。


マリンの住んでいるマンション、部屋のキッチンでチョコレート作りをすることにした。
王都の調理場は今頃昼ご飯を作っているので邪魔するわけにもいかず、かと言ってイグニスのキッチンを汚すわけにもいかなかった。
イグニスは構わないと言ってくれたが、床にチョコをまき散らしたり粉だらけにする自信があったので丁重にお断りしておいた。


「最初は簡単な生チョコレートの作り方だ。チョコレートを細かく刻んだら、ボウルに入れてゆっくりかき混ぜながら湯煎するんだ」

「ふむふむ……湯煎?」

「熱いお湯でこんな風にチョコレートを溶かす。お湯を直接入れるんじゃないぞ」

「うん、うん」


二人はキッチンに立つ。イグニスはジャケットを脱ぎ、腕まくりをしたシャツ姿にエプロンをしている。マリンは普段降ろしている髪を結い、エプロンをかけている。いつもは王都の軍服姿なので、それに見慣れているイグニスにとっては新鮮な光景だった。


「次に生クリームを入れる。空気が入らないようにゆっくりかき混ぜ、型に移したら冷蔵庫で冷やす」

「次に生クリームで…うんうん」

「あとは冷えるのを待って、ココアパウダーを振りかける。その間に別のお菓子を作ろう」


イグニスはちらっと隣を見る。普段は見えない細く白いうなじ、お菓子の匂いではない、マリン自身の甘い匂いが香る。説明を必死に聞きながらメモを取る姿に、じわりと黒いものが胸の内に広がるのを感じた。


「もし、チョコレートが一人にしか渡せないものだったら、あげたい人はいるのか?」

「えっ!?」


つまらない感情だとわかっているが、抑えきれなかった。マリンはメモを取る手を止めて、目を丸くしてイグニスを見る。言葉の意味を咀嚼するのに時間がかかっているようだ。好きな人はいるのか、と遠回しに聞いているようなものだ。


「あ…そ、それは……」


意味を理解したマリンの顔がみるみる内に赤くなっている。言い淀むマリンの態度に、イグニスの嫉妬心と焦燥感が煽られていく。


「言えないのか?」

「い…う、うん…言えない…」

「何故だ?」

「だ、だって……恥ずかしい」


マリンは頬を紅潮させながら潤んだ瞳をそらした。その顔が扇情的で加虐心を湧きあがらせる。この表情を他の男に見せてほしくない。一度口に出した不安は溢れるように表に出てくる。


「……誰なんだ?」

「あの、それは…」


イグニスが詰め寄ると、マリンは後ずさった。だが後ろに壁があるのですぐにそれ以上さがれなくなる。壁に両手をついて逃げられないようにし、イグニスはマリンに覆いかぶさるような姿勢になった。


「イ、イグニス……?」


イグニスの息遣いが聞こえるくらい、顔が近くにある。マリンは自分の顔が真っ赤になっているのを感じていた。顔から火が出そうだ。


「マリン……」

「ん…っ」


イグニスはマリンの両頬に手を添え唇を塞ぐ。逃げられないマリンはなすがまま、そのまま口づけを受け入れていた。耳も塞がれているので貪るように唇を吸ったり舐める音が脳内にいやらしく響いた。


「ん…ふぁ、ぁ……い、ぐに…す」


酸欠で意識が朦朧とする。どうしてキスをされているのか考えなくちゃいけないのだが、思考が追い付かない。甘いキスで腰が抜けそうだったので、必死でイグニスのシャツを掴んだ。


「……っ」


それがイグニスの劣情を煽る。




ーーーこのまま嫌われてもいいから最後まで。他の男に渡るくらいなら……




そう考えてマリンの腰に手をまわした瞬間、




ピーンポーン!




ドアのチャイムが鳴り、来客の訪問を知らせる。


「ん、ぁ…」


二人の口の間に銀色の糸が引かれ、離れる。 マリンはずるずると壁にもたれかかりながら座り込んだ。


「……俺が見て来よう」


眼鏡のフレームを直しながら、イグニスは玄関に向かった。邪魔が入って少し顔が怒っているような気がする。


自分の手で頬を覆うととても熱くなってのがわかったので、しばらく手の平の冷たさで頬の熱を冷ますことにした。


「おっ、イグニスー!マリンがさっそくお菓子作ってるみたいだから試食係に来たよー!」

「うお、すげーいい匂い」


玄関のドアを開ける音と同時にプロンプトとノクトの声が聞こえてきた。マリンは弾かれたようにキッチンに立ち、調理器具を洗っているフリをする。手に当たる水道水が先程の熱を冷ましていく。


「ノクト……課題は終わったのか?」

「うっ…、明日やる、明日」

「はぁ……」


イグニスの溜息と共に三人がキッチンに現れる。


「ふ、ふたりともいらっしゃい!」


マリンは焦りを隠しながら二人に声をかけた。ノクトが遠慮なしにさっそくソファに深く座っている。


「なに作ってんの?」

「あ、えーっと…生チョコレートだよ!まだ他のも作るつもりなの」

「ふーん」

「ねぇねぇ他のも早く作ろうよ!」


プロンプトがソファの背もたれから顔を出しながらわくわくと目を輝かせている。カメラまで持って調理風景を撮る気満々だ。


「仕方ないな……」


イグニスが自分の腰に手を当てキッチンにやってくる。隣に立たれるだけで先程のことを思い出し、動きがぎこちなくなる。対してイグニスは何事もなかったのかのように淡々と説明を続けた。




―――さっきのは、一体……




結局その日はマカロンやチョコブラウニーなどのお菓子の作り方を教わり、試食会をしてお開きになった。イグニスもノクト達と一緒に帰るというので、マリンは彼らを見送り、一人部屋に取り残された。当然といえば当然なのだが。


一人ソファに座りながら、クッションを抱きかかえる。昼間のことを考えると頭がぼーっとしてしまう。目を瞑って浮き立つ心を感じながら マリンは眠りについていた。
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