カラフル〜近距離恋愛編〜

□act.03 ベイカー街の亡霊
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ステージに入ると中はレンガ調の街並みがあって薄暗く霧が掛かっている。
手の感覚や匂いは本物で、とてもゲームの中だとは思えないくらいハッキリとしている。
そんな中、悲鳴が聞こえ、ジャック・ザ・リッパーと叫ぶ婦人の声が響き渡った。

ダッと走り出した探偵二人。
勿論コナン君と降谷さんだ。
その後をついて行く子供達の最後尾を走って様子を窺う。

話の内容は覚えてるけど誰が何処で脱落するかは曖昧だ。
だけど、降谷さんを死なせる事は出来ない。

「いってぇぇぇ!!」

側にあった廃棄物をコナン君が蹴ったけど、キック力は増強してなくてただの靴で、右足を持って痛がっていた。

「大丈夫?」

「ん、ああ、博士の発明品が……」

「ゲームの世界だからね」

「くっそ、メガネと時計もダメか……」

シュンとするコナン君に可愛いと思いながらも周りの様子を窺うと哀ちゃんが少年探偵団の影に隠れていた。

なんでって疑問が生まれたけど、ここには降谷さんがいるんだった。
公安だって分かってはいるけど一応、かな。
それか、苦手意識。
分かる、分かるよ哀ちゃん、彼、イケメンだから苦手意識持つのは凄く分かる。

誰か、私の情緒をなんとかして。

溜め息を吐いて落ち込んでいると、聞こえたのは英語で叫んでいる声。
すぐに日本語になり警官がどいてくれとやって来た。

「すぐにレストレード警部に連絡だ」

殺人現場となってしまったこの場所には居られないと少し移動する事にした。
子供達が先頭を行く一番後ろをついて行く。
すると、隣に並んだイケメン。

「どうやってバッジを手に入れたんですか?」

「落ちていたのを拾ったんですよ」

「本当の所は?」

「すりました」

「嘘吐き」

「すぐに結果の分かるのは"冗談"ですよ」

すぐに分かったとしても、それでも……。

「私には、嘘吐かないって言ったのに……」

消え入りそうな程に小さく呟いた言葉は誰にも届かなかった。

「ったく、犯人を捕まえろったって、どこを探しゃいいんだよ」

「朝になるまで待つしかありませんね」

橋の上で足を止めたコナン君の言葉に光彦君が困った表情で返事をした。
すると、歩美ちゃんが小さな声で寒いと漏らした事に反応したコナン君は空かさず自らの上着を渡していて、光彦君も哀ちゃんに渡していた。

「これ、着ろよ」

上着を脱いで私に差し出したのは元太君。
確か映画では蘭ちゃんが上着を受け取ってたから私が蘭ちゃんの代わりにここに来てしまったのならその好意は受け取らないといけない。
そう思って手を差し出そうとするよりも早く、褐色の手が伸びて来てそれを遮った。

「元太君が寒くなるから彼女には僕が貸すよ、それに、寒さを凌ぐには袖のある方がいいだろう?」

ふわっと肩に掛かった降谷さんのスーツのジャケット。
鼻を擽る大好きな匂いに胸がぎゅっと締め付けられて思わず眉が寄ってしまった。

そんな時、何処からかコナン君聞こえるかと阿笠博士の声がした。

『そのステージでは傷を負ったり敵や警官に捕まったりするとゲームオーバーになるぞ』

「ありがとうございます」

肩に掛かった服に袖を通し、すぐ近くにあった顔を見上げてお礼を言うと、優しく微笑んでどういたしましてと言葉を漏らす降谷さんに、どうしようもなく離れたくないと思った。

早く、この世界から出たい。
降谷さんの隣に居たら、心が揺らぐ。

『今いる場所はイーストエンドのホワイト・チャペル地区。そこからお助けキャラのいるベイカー・ストリートまでは……』

博士の声はそこで途切れた。
どうやらノアズ・アークに邪魔されたようだ。

「えっ?博士!?聞こえないよ!」

向こうの世界との通信が途切れ、足元が激しく揺れた。
そして、ドンっと大きな音と共にレンガ状の橋が崩れていく。

走れっ!
誰かの声を合図に崩れ行く橋から逃れるように急いで足を動かした。

なんとかギリギリの所で助かったと思えば、隣にいた菊川君が沈んで行くのが視界の端で見えた。
伸ばした手は空を切る。

落ちて行きそうな菊川君の手を取ったのはコナン君だった。
グッと掴んだ手が離れない様に私も菊川君の腕を掴み、そのまま引っ張り上げる。

「大丈夫?」

「え、あ……はい……」

目を見開いて呼吸を整える菊川君の頭を一撫でして落ち着かせるように微笑んで見せた。
そのまま手を取って起き上がらせてあげ、落ち着くように背中を少し摩っていると、降谷さんが言葉を漏らした。

「ノアズ・アークに交信を切断されたみたいですね」

それに逸早く反応したのは光彦君で、博士の声が聞こえなかったらお助けキャラをどうやって探すのかと疑問をぶつけた。

「さっき警官が話してたろ?レストレード警部に連絡だってな」

「なるほど、このゲームは現実と小説を混ぜ合わせてある世界、という事か」

「そう、だから、いるはずだよ、あのシャーロック・ホームズが」

ニヤッと不敵に片方の口角を上げたコナン君は凄く嬉しそうな表情だ。
犯人の手掛かりを見付けると共にこのステージを心から楽しんでる事は今の表情から嫌という程分かった。

コナン君はシャーロック・ホームズ好きだから嬉しそうな顔になるのは分かるんだけど、なんで隣にいる彼もちょっとニヤッてしてるの。

背の高い彼を見上げていると、バチッと目があった。
そして、普段通りの笑みをいただいた。

「こっ!」

「こ?」

「コナン君っ!助けてっ!」

近くにいるコナン君を持ち上げ、顔を隠すように前で抱き上げる。
だけど降谷さんの顔も拝みたいからチラッとコナン君の横から彼の表情を窺えば目が合った。
キョトンとしている表情から一変、ふふっと笑ったかと思えばコナン君を取られてしまった。

「ああぁぁ、返してコナン君っ」

「いや、なんでだよ。降ろして安室さん」

地面に足をつけたコナン君はそのままベイカー・ストリートへの道を歩む。

「顔、真っ赤ですよ」

「っ!」

だからコナン君に助けを求めたんだよ。
安室スマイルが不意打ちだったから。
これじゃあ大好きだって叫んでるようなもんじゃん。

「何してんだよ置いてくぞー」

元太君の声に、赤くなった顔を手で扇ぎながら子供達の後をついて行った。
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