カラフル〜近距離恋愛編〜

□act.03 ベイカー街の亡霊
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「なんです?あの置き手紙は」

「…………」

「昨日、若しくはそれ以前から決めていた事ですよね、だから昨日泣いたまま眠ったんですよね」

気付かれてたようだ。
暗いし丸まって寝たから顔を覗き込まない限り分からない筈なのに…。

「まさか、覗いたんですか?顔っ」

隣に来てニコッと微笑んでから外を眺める降谷さん。
覗かれたのか、恥ずかしい。

すると遠くの方から近付いて来るパトカーのサイレンの音に漸くかと目を伏せる。

「紙も濡れた痕跡があったので心にもない事を書いたと……」

「…………」

「そう、言ってください」

手を優しく掴まれて悲願するように言われると、また、戻りたくなってしまう、降谷さんの所に。

「過去形は、嫌いなんですよ」

置き手紙には一言ありがとうございましたと書いた。
今まで沢山良くしてもらって、あの小さな紙には今までのお礼は書ききれなかったから、だから一言お礼を書いた。

「態々密室トリックを使ってまで鍵を返したかったのはもう僕に会う気はなかったから、ですか?」

何も言えなくて、でも、何か返さないといけないと思って顔を上げた時、視界に優作さんとコナン君がどこかへ行くのが見えた。
そして徐々に移動を始めた会場内の人達に、そろそろヒロキ君が動き出すと私も人混みについて行く事にする。

それなのに、黙っては行かせてくれない。

「腕、離して下さいっ」

「椿さん、忘れ物があるので、パーティーが終わった後、時間をください」

忘れ物?
何か落としたかな。
化粧品だったり、もしやパンツだったりしない?
パンツだったら恥ずかし過ぎる。

「捨ててもらって結構ですので」

「それは椿さんの目で直接見て判断してください」

握られていた腕が離れ、名残惜しくて眉が下がりそうになった。
だけど、頑張れ自分と顔に出そうになった所で降谷さんの顔を見る事もなくその場を去った。
そして、別の会場へ移動すべく歩いていると、どうやらコクーンのある部屋の最前扉の所に来てしまったようだ。
間違ったと慌てて踵を返す。

「あれ?椿さんこんな所で何してんのー?丁度良かった、コレあげるわ」

「えっ?いや、ちょっ、なんで?貰えないよ」

手渡されたのは子供達の持っているゲーム参加者である証のバッジだ。
待って、園子のバッジが私に譲られるって事は…。

「蘭ちゃんは?」

「蘭ならほら、あそこ」

あそこと指された所には確かに蘭ちゃんの姿があって、その近くに毛利さんの姿はない。
彼だけじゃなく昴さんや降谷さんの姿もない。
つまり、事件の方に顔を出してるようだ。

「このバッジ私より蘭ちゃんの方がいいんじゃ…」

「なぁに言ってんのよ、椿さんの方が私たちより童顔じゃない」

それに私こういうの苦手だから行ってらっしゃいと背中を押され、まじで?まじで?と思ってる間にも固定式金属探知機を潜ってしまい、楽しんで来てねーと園子に手を振られた。

いやこれ童顔関係ないよね?
身長でもうダメだよ。
それに成人済みの大人が女子高生に勝てるわけがない。

席に案内され、暫くすると会場の照明が落ちた。

『50名搭乗完了!ブレインギアセット完了!カプセルリッドクローズ!ホスト・ハードウェアにアクセス!』

コクーンが閉まり、パワーセット完了と言葉が聞こえると眩しい光が溢れ出して瞼を閉じる。
ゲームスタートだ。

パチっと目を開けると沢山の子供達がいて、その中に一人だけ大人の私がいる。
大人が混ざっていて申し訳ないと思うし、その分頑張らないとなっていうプレッシャーもある。
そう思った所で、チラと視界に入った色素の薄い髪。
大人は私だけじゃなかった。

「あれ?椿さん!?なんでここにっ?」

「っ!園子からバッジを譲り受けたから」

ビックリする新一の頭をよしよーしと撫でながら目線を合わせるように蹲む。

「さっき樫村さんが亡くなったんだ、なんか知らねぇか?」

「殺されたのは知ってるけど……」

犯人を言おうかどうしようか言葉に悩んでいるとノアズ・アークの声が聞こえた。

『ボクの名前はノアズ・アーク、よろしくね……今から五つのステージのデモ映像を流すから自分が遊びたい世界を選んでほしい、でも、一つだけ注意しておくよ……これは単純なゲームじゃない、キミ達の命が掛かったゲームなんだ』

全員がゲームオーバーになると現実世界には戻れなくなり、特殊な電磁波を流され頭の中を破壊される。
日本のリセットを賭けた勝負。
そうノアズ・アークが説明すると一つ一つデモ映像が流れた。

勿論行く先は五番目のオールドタイム・ロンドン、1888年のロンドンだ。

「行こっか」

新一の手を取ってステージ前まで来ると、少年探偵団だけじゃなく、滝沢君と江守君、それから菊川君がいて、ノアズ・アークであるヒロキ君こと諸星秀樹君がいた。

映画通りだ。
ただ、ここには蘭ちゃんが居ない。
代わりに私がいる。
園子にバッジを貰ってしまったから。
だから、頑張らないといけない。

それと、もう一つ想定外な事に、降谷さんもここにいる事。

「え、安室さんも参加したの!?」

「宜しく、コナン君」

笑顔を向けて子供達に挨拶をしてる降谷さんに眉が寄った。
頑張らないといけないのに、頭の中は降谷さんでいっぱいだ。
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