カラフル〜近距離恋愛編〜

□act.02 ゼロから新しく
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「降りましょうか」

にこっと微笑んだ降谷さんは私の頬から手を離し車を降りたのでその後に続く。
私の鞄を持ち、体を支えるようにして歩く降谷さんにもう胸はきゅんきゅんしまくりだ。
もう、匂いにやられてるし逞しい腕が傍にあるだけで心臓は煩い。

部屋に着いて先に和室へ行った降谷さんを見送ってから玄関で靴を脱いだ。
一歩出した所で戻って来た降谷さんになんだろと顔を上げると、ふわっと正面から抱き締められた。

「っ、心配っ、したんですよ」

グッと痛いくらいに抱き締められ、悲痛な声で、そして泣きそうな声で言われ、脳内は停止しそうだ。
だって、泣きそうな、じゃなくて……。

「泣いてる……?」

降谷さんが、泣いてる?
驚きでピタリと固まっていた体を離そうとするけど、降谷さんの力が強くて少しも動かなかった。

「離れないでください」

声が、震えてる……。

「僕からっ、一生っ、ずっと……」

ぎゅうっと抱き締められ、ゆっくりと離されると降谷さんの青い瞳と目が合う。

「椿さん……」

瞳が揺れていて、濡れていて、視界に入った伸びて来る手と同時に綺麗な瞳から涙が零れた。
手は頬に触れ、優しく包み込むように撫でられる。

「すみません、疲れているのに……お風呂沸かしますね」

ちょっと待っててくださいと浴室へと行ってしまった降谷さんの背中を見つめ、和室へ行き鞄の中から愛銃を手にした。
備品を少し外す。
本当に綺麗に手入れしてくれたようでピカピカだった。

手にして眺めながら脳内には降谷さんの泣き顔が蘇る。
泣き顔は見たかったけど、凄く複雑になってしまった。
嬉しいよ?
心配されちゃったし、一生離れないでほしいって言われたし……。
一生、離れないで……一生……。
ボンッと音がしそうな程顔に熱が集中した。
プロポーズじゃん!!!

「椿さん、お湯入れたのでもう少ししたら入っ………なんて顔してるんですか、そんな物騒な物持って」

隅に置かれた鞄の前に座っていると降谷さんが来て真っ赤な顔を覗き込むように膝を着いた。

「あ、あの、これありがとうございます!」

綺麗にされた愛銃を見せ、熱い頬を何とかしようと片手で触れていると降谷さんに顔を掴まれ視線を合わされる。
ヒッと引き攣った声が小さく漏れた。
ドッドッドッと煩くなる心臓。

近付いてくる整った顔に、目を閉じると優しく合わさった唇。
触れるだけ触れ、すぐに離れていったので瞼を上げるとまた真っ直ぐな、それといて様子を窺って来るような視線があった。
それからまたキスが来ると思って目を閉じると噛み付くように唇を塞がれる。

降谷さんの唇の味を堪能してしまい、脳はもう溶けそうになっていると離れた唇に薄く目を開く。
眉を八の字にして苦しそうに見つめる降谷さんがいて、近付いて来たのでまた瞼を閉じた。
だけど唇に何かが当たる事はなく、頬にあった手も肩に置かれ、目を開くと溜め息を吐き目の前で項垂れている降谷さんがいた。

「お風呂……どうぞ……」

「え、あ……はい、お先にいただきます……?」

浴室の扉を開けるとお湯はあともう少し。
乳白色の入浴剤が既に入れてあり、ミルクの甘い香りが鼻を擽り肩の力が抜けた。
着替えを忘れたので和室に戻ると、机に向かってパソコンをしている、いや、項垂れている降谷さんがいた。

「はぁ……ヤりたい……」

額に片手を置き俯いている降谷さんの視線はゆっくりと上がって来て、やがて視線が合う。

「……今の聞いてました?」

「ぁ……え、と……ヤり、ますか?」

自意識過剰じゃなければ、セックス、だよね?
え、違うかな?
やるって何の話だろ、まさか仕事の話?
だったらめちゃくちゃ恥ずかしいじゃん。

一度口から出てしまった言葉は戻せない。
降谷さんと見つめ合う事数秒、シンと静かな和室に小さく息を吐く音が耳に届いた。

「正直な所、ヤりたいですけど……でも今日は椿さんの体が心配なので早く眠ってください」

丁度お風呂が出来たと電子音が鳴った。
ほら、お風呂が沸いたので行って来てくださいと降谷さんに言われてしまえば先に入る身として着替えを手に浴室の扉を開け服を脱ぐ。

化粧を落としてから髪を洗って体を洗って、それから浴槽へと浸かると、椿さんと声が掛かった。

「明日の予定を聞いてもいいですか?」

「明日ですか?特に……ないです」

出勤しようか悩んでいたけど明日何かあるのかな。
お風呂まで聞きに来たんだから何かあるのは分かるけど、なんだろ、いい事だったらいいな。

「明日、新型仮想体感ゲーム機の完成披露パーティーがあるらしいんですけど、行きたいですか?」

「新型、仮想体感……ゲーム機?」

待って、どっかで聞いた事あるような……。

「園子さんに誘われたんですけど、椿さんが行くなら行こうかと思いまして」

勿論体の事が心配なので無理はしないでくださいよ、と念を押されたけど、行きたいのは行きたい。
でも、私が行くと降谷さんも行く事になって、そうなるとまた仕事が……。

浴槽から出て扉の隙間を少し開ける。
すると、携帯片手に画面を見ていた降谷さんは視線を少し上げた。

「あの、お仕事何か手伝える事ってありますか?」

反対を向いて扉から離れた降谷さんに、私はそっと浴室から出てタオルで体を拭いていく。

「気持ちは嬉しいですけど、僕の仕事なので」

下着を着けながら少し気が沈んだ。
確かに、降谷さんの仕事はどれも大変そうだし手伝える事がないのは分かってるけど、でも……。
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