カラフル〜近距離恋愛編〜

□act.02 ゼロから新しく
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「園子さんには明日出席すると伝えますね」

「えっ、や、待って下さい!私行きません!」

スウェットの上下を着て降谷さんの前に回り瞳を見つめながら言う。
ジッと顔を見られ化粧を落とした顔だという事を思い出しバッと顔を隠すけど遅く、ふふっと笑われた。
こんな至近距離で明るい所はダメですよ。

「降谷さんの一番は仕事じゃないですか」

「まぁ、そうですね、間違ってはないですね」

「私はその下の下の下の下の下でいいんでっ、ちょっ、顔は見ないで下さいぃぃぃ!!」

やめてぇぇぇと顔を覆い隠し蹲んでドライヤーを手に髪を乾かし始めた。

自分で言ってて悲しいよ?
だけど、本当に降谷さんの一番は仕事であって……仕事を優先にしないとこれから先死ぬかもしれなくて……だから、わがままはダメなんだよ。

考えながら縮こまってドライヤーをしていると、不意に掴んでいたドライヤーを持ち上げた降谷さん。
そのまま左手は私の頭へと乗り、わしゃわしゃと暖かい風が髪を揺らす。

脳内が一瞬停止してしまったけど、目を見開き降谷さんに振り返ってストップを掛ける。

「自分で出来るので、降谷さんは仕事かお風呂に」

「僕がしたいんですよ」

にこっと笑って膝を付く降谷さんを目に焼き付ける。
きっと、まだ体が不調だから。
そう思って髪を乾かしてくれるんだろう。
私は寝たし点滴の力で通常運転なんだけど、今日は安静にして下さいと言う事だろうか。

違う、そうじゃない。
降谷さんの手がめちゃくちゃ私の頭を撫でてるんだよ!
きちんと言えば髪を乾かすのに指先でわしゃわしゃされてるんだよ!
待って幸せ過ぎて泣きそう。
そっちの意味で辛い。
心臓がきゅってなる。

「園子さんに返事したので、明日一緒に行きましょうか」

「…………」

私、多分降谷さんの事ダメにしてる気がする。
降谷さんの事は大好きだけど、降谷さんだけじゃなくて、他人と一緒にいるの、向いてないんだろうな。
ましてや一緒に住むなんて、凄く難しい事じゃん。

「聞いてます?」

コクンと頷いて視線は床へと向く。
今、どんな顔してるんだろ。
ドライヤーの音も、髪を乾かしてもらってる事にも、素顔の自分にも、全て助かると思った。

「時間まで仕事があるので一旦出ますね」

「了解です」

ドライヤーの音が止んだので髪を触るとブラシもしていないのにサラサラだった。
何故……降谷クオリティか……。

お礼を言って顔を隠しながら立ち上がると降谷さんは脱ぎ始めたのでサッと洗面所から立ち去った。

放置していた携帯を手に、中を確認すると心配のメールが蘭ちゃんと園子、コナン君から来ていて、園子からは明日行われる新型仮想体感ゲーム機の詳細が送られて来ていた。
あくまで体調が良ければ一緒に行かないかと気遣いのある文面。
読んでいると、携帯が震えた。
園子からメールだ。

「なんで私には返事返さないで安室さんには返すのよ!まぁでも明日来るんだったら安室さんに送ってもらいなさいよ」
園子って口は悪いけど裏表がなくて友達思いだから好きだな。
私に彼氏がいるって知ってるのに降谷さんに送ってもらえって事は体調を気にしてくれてるんだよね。

「歯磨こ……」

携帯片手に洗面所で歯ブラシを口に突っ込む。
園子には「返事返そうとしてたのー、明日行くね」と差し障りのない文を送っておいた。

口を濯いで寝室である和室へ戻り、ベッドに横になる。
布団を鼻まで引っ張り、携帯片手に丸くなれば降谷さんの匂いが鼻を擽り胸が締め付けられた。

「好きだなぁ……大好きだなぁ……」

声にすると、涙が溢れて止まらなかった。
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