亜人◇短編

□好きと距離
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ものすごく寒い。

何故なら今は真冬。

なのに外でアイスを食べる奴が隣に居る。

見てるだけで風邪を引きそうだ。

「なんですか田中さん。食べたいんですか?」

「食べるかよ!…冬に外で食べるとかイカれてんのか。」

「冬にアイスを食べる事の何が不満なんですか?」

「お前寒くないの?」

「寒いですよ。」

「じゃあ何で食べんのよ。」

「うーん…レプチン濃度が下がってるからかな。」

「は?」

「レプチンです。」

「は??」

「脂肪細胞から分泌される生理活性物質の 1 つで、食欲を抑制し、エネルギー消費を増加させます。」

「…そうか。」

「…ふ…ふふ。」

「あ?何笑ってんの。」

「知ったかしようとしてる。」

「してねーよ!」

「田中さんって本当に可愛いなぁ。」

「…早く食べろよ。佐藤さん待ってるから。」

「そっか。忘れてた。」

「…。」

「ねえ、田中さん。もし田中さんが佐藤さんの事で迷った時、私が田中さんを貰ってもいいですか?」


「…あのな、俺は物じゃないんだけど。」


「いつかそういう時がくると思いますよ。」


「…どういう意味だよ。」


「だって田中さん優しいから。」


「俺は優しくなんて無い。」

「じゃあ何で寒いのに私に付き合って外にいるんですか?車で待ってれば良いしもっと言えば帰ってしまっても良いわけじゃないですか。」

「…そんな屁理屈ばっかり言ってると本当に置いて帰るぞ。」

名無しは
俺の肩に頭を乗せてもたれる。


「またまたー。意地悪言ってる。」


「…。」

「顔赤くして可愛い。」

「…食わないなら俺が食べるぞ。それ!」

「いいですよ。はい、あーん。」

「…。」



「美味しいでしょ?」

「冷たい。寒い。胃腸炎になる。」

「胃腸炎って辛いですよね。もしなったらリセットしてあげますね。」

「…思い遣りが有るか無いかで言うと無いよな、お前。」

「看病してほしいならしますよ。全力でサポートします。」

「全力でって…。」

「照れてますね。」

「照れてねーよ。」

「田中さん、好きな人いるでしょ?」

「は?!」

「やっぱり。当てましょうか?」

「…!……いねーよ。」

「本当、田中さんって分かりやすいなぁ〜。佐藤さんでしょ?」

「はぁ?!」

「…あれ?違った?」

「だっていつも一緒だし夫婦みたいですよ。側から見てると。」

「…馬鹿だわ、お前。」

「むむ。」

「…お前はどうなんだよ?…好きな人。」

「…います。」

「誰だ?佐藤さんか?」

「…全人類で私的、No. 1イケメンボイスな大塚さんが好きです。いや、大好きです。」

「誰だよそいつ。」

「後でゆーtubeでお見せします。」


「…いや、いいわ。」

「あ、チョコ食べたい。」

「甘党が。その前にそのアイスを早く食べろよ。」

こいつとは距離が近いのか遠いのか分からなくなる。


けど、この距離感は居心地が良い。



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