亜人◇短編

□林檎
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「何してんの?」

中野君は木の上に登り枝に立っていた。

「死ぬ練習!」

「その高さで死ねると思ってる君が羨ましいよ。」

差ほど高くない木なのにドヤ顔で言う人。

永井君が馬鹿だと言うのも分かる。

本当に馬鹿なんだ。



「えっ!?マジで!?これじゃ死なねーのかよ!!」

「…頭をお腹に向けてそのまま落ちたら首の骨折れて死ぬかもね。」


「なるほどな!……でも俺、高所恐怖症。」


「知ってる…もう降りたら?」


「手伝って!」

「はぁ…。」

木に登って降りれないって…猫ですか貴方は。


「はー。助かった。サンキューな名無し!」

「…中野君、永井君に教えてもらってたでしょ?手っ取り早く死ねる方法。」

「ああ、あれなぁ。飽きた。」

「…。」

「あー、疲れた!」

そう言うとその場に寝転がる中野君。

「…風が気持ちいいなぁ。」

木が風で揺れて音をたてる。

「中野君は死なないのになんで高い所が苦手なの?」

「怖いから。」

「…だからなんで怖いのか聞いてるんだけど。」

「ん?なんでかなぁ。」

「…。」

「ばんゆういんりょく」

「は?万有引力?」

「うん。それ、万有引力って何?」

突拍子な質問をする中野君。

「…急に何?」

「ほら、あれ、あのおっさん!リンゴを落として重力があるとか言った偉人!」

「ニュートンの事ね。だから何?」

「すげーよな。リンゴを落としただけで重力があるって分かるだなんてさぁ。」


万有引力と重力は別物なんだが…。
まあ、彼の好奇心に付き合うことにしよう。

「万有引力は2つの物が引い合う力だよ。重力は物体の重さが原因になってる力の事。…でも重力って細かい事は未解決なんだって。」

「えぇ!?マジかよ!」

「うん。こうやって私達が立ってられるのも万有引力と重力だってのにね。」

「…奥が深いんだなあ。」

「重力っていうのは計測する事が出来るんだよ。それを証明したのがアインシュタイン。」

「ああ!その人知ってる!電球作った人だろ?」

「それはエジソンだよ。馬鹿。」

「そうだったけ?」

「…。」

「でも計測出来るのになんで分かんないんだ?」

「計測機や計算式を駆使して理論的には見つかるモノが見つからないのがまた面白くてロマンチックでもあるけどね。」

「…ロマンチックか?」

「そうよ。」

「分かんねー。やっぱお前変わってんな。」

「…中野君は」

馬鹿と言おうと思ったけど辞めておこう。

「…中野君は人間より人間らしいね。」

「ん?」

「人間味があるという事。」

「褒められてるんだよな?」

「そうよ。」

「なに顔赤くしてんの?」

体を起こして顔を近付けてきた中野君。

「馬鹿。近いから離れてよ。」

私は顔を引く。

「イヤだ。」

そして肩を掴まれ後ろに倒された。

「何すんの!?」

「お前も永井も頭固いからちょっとは休めよ。こうやって寝ながら空を見た事ないタイプだろ?」

「…。」

確かに。

こんな風に空を見上げたのは初めてかもしれない。

木よりも遥か遠くにある空。
手が届かそうで届かない雲。


「なぁ。」

「何?」

「こういうのをロマンチックって言うんだぞ。」


中野君は私の手を取り指を絡める。

「…そっか。それもそうだね。」

「名無しの捻くれたとこ可愛い。」

「…お褒めの言葉ありがとう。」

中野君はニコリと笑うと優しく体を引き寄せて頭を撫でる。

彼のまつ毛が風に揺れて瞳は真っ直ぐ私を見つめる。
照れ臭くて目線を外したくなる。

その照れ臭さを誤魔化すために私は彼に唇を重ねた。

どこまでも優しくて馬鹿で暑苦しいやつ。

でも一緒にいて飽きない。

馬鹿な彼だけど私の知らない事も知ってる。

「…ッ!ちょっと。それはダメ。」

彼が私のズボンの中に手を入れようとしたので彼の手を叩く。

「ええー。ダメなの?」

「当たり前でしょ。ここ外だよ?」

「じゃあ部屋に行こうぜ!」

「…もう時間だから平沢さんの所に行かなきゃ。」

「…ち。」

「また後でね。」

「じゃあ、もう少しだけ!もう少しだけこのまま。それならいいだろ?」

「…いいよ。」

私はスッポリと彼に収まる。

暑いけど心地いい。

夏の蒸し暑さは嫌いだけど中野君に抱かれての暑さは好き。

矛盾だけど好き。

ロマンチックだからかな。

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