亜人◇短編
□ウイルス
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「…なんじゃこりゃ。」
隣でボソリと呟く名無しさん。
「奥村さん。」
「…。」
何か面倒事を持ってきた予感がする。
「おくむらさーん。」
「何?」
名無しさんは自分のスマホ画面を見せてきた。
画面には警告表示がでかでかと載っていた。
「これどう言う事ですか?」
少し慌てた様子の彼女。
「…ああ。それ、今流行りのウィルスだね。」
「ウィルス!?スマホでもウィルスってヤツあるんですか!?」
「常識。それ、スマホの個人情報を人質に身代金を要求されるやつだよ。厄介なのは払っても払わなくても個人情報は吸収される。」
「…!マジっすか!!」
「でも僕らのは使い捨てだから別に放置すればいいよ。」
「…写真とかは?」
「写真とか…って、まさか」
「入ってます。…ここのメンバーの。」
それは厄介だな。
顔割れしまくってる人居るし。
「…ちょっと貸して。」
「え…はい。あ、写真は見ないで下さい!」
「見ないよ。この表示が出てる時点でアウトだ。こうなったら元の方にウィルス返ししてそこからまた先の…」
説明しているのに名無しさんの目は停止していた。
目、というより脳の方か。
ー30分後ー。
「これで大丈夫だよ。」
名無しさんにスマホを返す。
「わー!奥山さん!!本当にありがとうございます!」
返した手を両手で握ってきた名無しさん。
「ところで、なんの写真?」
「え?…そこ聞きます?」
「一応、聞いておこうと思っただけ。」
「…これは永久保存したくて。」
そんな事は聞いてない。
「で、誰の写真?」
「…。」
「佐藤さん?」
「佐藤さん!?え?何で佐藤さんなんですか?」
質問返し…か。
「…やっぱり佐藤さんか。」
「違います!」
速攻否定してきた。
なら違うのか…?
「じゃあ誰?田中君?」
「違います!」
「高橋君?」
「絶対違います!」
「…ゲン君?」
「絶対絶対違います!!」
「…まさかと思うけど、僕?」
心臓が大きく脈打つ。
「…違います…。」
「……まさか自撮り?」
「なっ…違いますって!!」
「じゃあ何撮ってたの?」
はぐらかさずに早く言えば良いのに。
「…怒らないでくださいね。」
「物によるね。」
「えっ…!」
「早く言いなよ。」
「……奥山さんの…寝顔。」
「…。」
予想外だ。
「奥山さんの寝顔なんてレアだから…。あと何だか可愛くて。」
隠し撮りなんて不愉快だが、何故だろう。何気無く嬉しい。
「…。」
「ごめんなさい。」
「別に良いよ。でも盗撮なんて悪趣味だね。」
「…ごめんなさい。」
「消しておいてね。高橋君達に見られたら面倒くさいし。」
「…えー…。」
「じゃあ、僕にも撮らせてよ。名無しの写真。」
「へっ?!私の?」
「嫌なら別にいいよ。」
「…恥ずかしいなぁ。」
「人の寝顔勝手に撮った人に拒否権があるとは思えないけど。」
「拒否権無いんだ…」
「当たり前。」
「佐藤さんばっかり撮るのも飽きたし。」
「じゃあ…どうぞ。好きに撮ってください…。」
「冗談だよ。もう撮らないでね。僕は作業に戻るから。」
君をからかうのは初めてだ。
使い捨てのはずのスマホが永久保存とか言って僕の写真がある。
僕だって君の写真が欲しからあんな事言ったけど正直、恥ずかしい。
スマートに撮れたらどんだけ良かったのか。
高橋君達なら軽くやってのけるんだろうな。
僕には無理だ。
今はただ同じ部屋で作業しているだけが唯一の癒しなんだから。
あ、だから寝ちゃったのか。