魔入りました!入間くん

□盗みの目的
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 魔界学校バビルスには、問題児(もんだいじ)のみが集められたクラス、問題児(アブノーマル)クラスが存在する。
 人間である私が悪魔に正体を知られればパクリと食べられてしまう。
 危険な状況下にいる私が目指すのは、何の問題も騒ぎも起こさず平穏な毎日を過ごすことだったのに、このクラスに入れられた時点でそれは叶わなくなった。

 同じクラスには、イルマくんという悪魔らしくない悪魔がいて、彼と一緒にいるといろんな事件に遭遇することがある。
 それでも私が彼と関わり続けるのはきっと、この関係が心地良いから。
 人間世界では友達なんていなかったのに、魔界に来てからは、イルマくん、アズくん、クララちゃん、三人の友達ができた。
 悪魔だろうと人間だろうと私は関係ないと思ってるけど、私が人間だとわかっても三人は変わらず友達でいてくれるんだろうかと時々考えてしまう。

 顔を伏せると前髪がサラリと垂れてきた。
 ピンで留めてたはずなのに落としたんだろうかと床を見ていると、目の前に差し出された掌には私のピン。



「あ、私の!」

「わりいわりい、つい癖で」



 頭の後ろに片手を添え全く悪怯れる様子もなく謝罪するのは、同じクラスのジャズくん。
 今までに数回話した程度の相手。
 ピンを返してもらい彼に視線を向ければ、ヘラヘラとした笑みを浮かべている。

 彼の家系能力は盗視(ピット)
 対象の隠し持った物を見抜き、最短ルートを示す。
 両手全指には金属の指輪が嵌められており、無駄に動けば動くほどカチカチ音が鳴り相手に気付かれる自身への枷。

 いくら考え事をしてたとはいえ、髪に付けてるんだから取られれば気づくはずなのに油断も隙もあったもんじゃない。



「ジャズくんの能力や技術は凄いと思うけど、人の物を取るのはダメだよ」

「次から気をつけるわ」



 絶対にまたやるなとは思うけど、それを言ったところで癖がなおるわけではないので口にはしない。
 彼の家系能力も凄いけど、五指それぞれを限界まで開き、誰にも悟られる事なく一瞬で盗み取る手腕は、家系能力に関係ない彼自身の技術。
 悪魔の事はまだわからない事のが多いけど、一年生でここまで出来るのは凄いことだと思う。
 人間でいうところの才能だってそう。
 努力しなければその才能だってないのと同じ事。



「リタち、食堂行こー」



 クララちゃんに呼ばれ振り返れば、イルマくんとアズくんもいる。
 ピンも返してもらったしジャズくんと別れ四人で食堂へ向かいお昼を食べていると「俺の財布がねえ」と一人の悪魔が騒ぎ始めた。
 その近くにジャズくんの姿を捉えた私は、イルマくん達に「用事ができたからごめんね」と伝えて彼の元へ向かう。

 声を掛け財布の事を尋ねれば「やっぱ癖は直んねーよな」と開き直り、上げられた手には財布が握られていた。
 先程の悪魔の物だろうそれをジャズくんから受け取り持ち主の悪魔に声をかける。
 本当の事は話さず落ちていたと伝えたけど、この癖は何とかした方がいい。
 今はこのくらいで済んでいるけど、この先問題にならないとも限らない。
 そもそも彼が問題児(アブノーマル)クラスに入れられた原因がまさにその悪い癖が原因なんだから。



「ジャズくん、ちょっと来て」



 ジャズくんの腕を掴み人気がないところに移動する。
 ここなら誰にも聞かれることなくゆっくり話せるだろう。
 掴んでいた手を放し振り返ると、どこか落ち着かない様子のジャズくん。
 取り敢えず本題に入ろうと話す内容は勿論、無意識の盗みをやめてもらうこと。
 本人は気にしていないみたいだし、直そうとすら思っていないのは見ていてわかる。



「直すっつてもなー」

「先ずは意識が大切だと思うの、って、言ったそばから」



 話している途中で前髪が垂れてきたと思ったら、やっぱりジャズくんの手には私のピン。
 直すって話をしてるそばからこれじゃあその気にさせるのは難しそう。
 彼が好きな高価な物なんて私には無いし、他に興味を引けそうな方法はないかと考える。
 そこで思いついたのが、私の物だけ盗ませるというもの。
 私にだけ注意が向いている間は他に目もいきにくくなるし、先ずは直すことより被害を抑えることから始めようと思う。
 とはいえこんな内容じゃあ乗ってくるはずもないので、これをゲーム感覚にしてみる。



「毎日私の物をジャズくんが一つ盗む。そしてその日のうちに私がそれを取り返す」

「へー、面白そうじゃん。でも、俺は簡単でもリタちゃんには出来ないだろ」



 確かに、相手は盗みのプロと言ってもいい悪魔。
 そんな相手から取り返すなんて素人にできない事くらい承知の上だけど、それを可能にする方法があるなら話は別。
 ポケットから取り出した物を見せれば、ジャズくんはニヤリと笑い「その話乗った」と言わせる事に成功。
 やったと思っていたら、ジャズくんからゲーム内容の変更を提案された。

 先ずジャズくんが私から一つの物を盗むというのは変わらないが、期間は三日。
 三日の間にジャズくんが盗めなければジャズくんの負け。
 もし盗まれたとしても、日数はそのままで残った期間内に取り返せれば私の勝ち。
 私が勝ったら今後無闇に盗みはしない。
 但し期間内に取り返せなかったときは、ジャズくんは私から一つだけ何かを貰うことができる。

 私だけに注意を向けておけばその間だけでも他への被害が抑えられると思っての提案だったけど、まさか本人から盗みはしない宣言をされるとは思わなかった。
 全ては私がこのゲームに勝てればの話だけど、少なくても当初の目的は果たせるし、負けたとしても私が持ってる物一つで済むなら安い。
 勿論その条件を受け入れ、早速明日からゲーム開始。



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