魔入りました!入間くん

□おかしな告白二つ
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 今日、私はずっと違和感を感じていた。
 原因は、同じ問題児(アブノーマル)クラスの入間くんの様子がおかしいこと。
 私と入間くんは、ここ、悪魔学校バビルスで二人だけの人間。
 その事を知るのは、理事長であり入間くんを両親から買い取った悪魔、サリバン理事長と、そのSD(セキュリティデビル)であるオペラさん。
 そして、空想生物学担当教師のバラム先生の三人。

 二人だけの人間ということや同じクラスという事もあり、私と入間くんは普段一緒に行動する。
 入間くんに懐いてるクララちゃんや、一度入間くんに負けてから従属したアズくんも交えて四人でいる事が多いのだが、今日の入間くんには何処か違和感を感じる。

 アズくんやクララちゃんは気付いていないのか普段通りだけど、何かがおかしい。
 そう私が一番最初に感じたのは、一時間目の授業を終えた後のこと。
 いつもの様に四人で次の授業を行う教室へ移動していたとき、前からバラム先生がやって来て私は入間くんの後ろに隠れた。
 バラム先生が挨拶をする中、私だけは入間くんの背に隠れたまま見ようとさえしないのがいつもの事。



「それじゃあ、僕は行くね」



 バラム先生の言葉で入間くんの背からチラリと覗けば、去り際に視線が重なる。
 いつもは目が合っても困り顔をされるのに、今日は優しげに目を細め笑いかけてくれたことに鼓動が高鳴る。
 私がこんな態度だから、きっと嫌な子だと思われているに違いないと思っていた。
 だから苦笑いを浮かべられるんだって。

 私がバラム先生を好きなことは入間くんしか知らない。
 気持ちがバレたとは考えにくいけど、あんな笑みを見せてくれたのは最初に顔を合わせたとき以来だ。



「リタちゃん大丈夫」

「う、うん」



 入間くんが困り顔で私を見てくる。
 毎回バラム先生と遭遇する度に盾にされていたんじゃ、入間くんだって困るよね。
 私は入間くんの背から離れ「いつもごめんね」と言えば「バラム先生怖いもんね」と言われた。

 何故か悲しそうな入間くん。
 今はアズくんやクララちゃんもいるから、私がバラム先生を好きなことを知られない様にそう言ってくれてるんだろうけど、それにしては演技とは思えないくらい悲しげな瞳や声に違和感を覚えた。


 その後、気になった私が入間くんを観察していていくつかの違和感を覚えた。
 アズくんやクララちゃんへの対応のぎこちなさ。
 一番の決め手は、入間くんが頼みを断った事。
 言い方は悪くなるけど、入間くんは凄くお人好しで、頼まれた事を断ることができない。
 少なくとも今までに断ったところなんて見たことがない。


 放課後。
 普段なら、入間くん、アズくん、クララちゃん、私の四人で帰るのに、入間くんは今日用事があるからと三人で帰るように言って教室を去ってしまった。
 やっぱりおかしいと思った私は、自分も用事があると二人に伝えて入間くんの後を追う。

 どこに行くんだろうかと思っていたら、入間くんが入っていったのはバラム先生のいる準備室。
 何か悩みごとがあって相談しに行ったんだろうか。
 今日は様子もおかしかったし、友達として力になりたい。

 私も準備室に入ろうと扉の前に立つけど、バラム先生を目の前にする勇気がなくてノックすらできない。
 友達が悩んでいるのにそんなこと考えている場合じゃないと首を左右に振り、私はノックすると扉を開けた。

 二人の驚いた視線が向けられ、何よりバラム先生に見られていることが恥ずかしくて耐え難い。
 それでも逃げ出すわけにはいかないと、後退りそうになる足を前に進め中へと入る。



「リタちゃん、どうしてここに……」

「入間くんの様子が今日一日おかしかったから、何か悩みがあるんじゃないかと思って」



 入間くんの言葉に答えている間も、何故かバラム先生は笑みを浮かべながら微笑ましそうに私たちを見てる。
 もしかして、私が入間くんを好きだと誤解されたのかもしれない。
 だとしても、普段からバラム先生を避けているのは私。
 バラム先生と会う度、入間くんに引っ付いていたんじゃそう思われたって無理はない。
 好きな悪魔に誤解されるのは嫌だけど、今は入間くんの方が優先。



「僕の事を心配してくれたんだね。ありがとう」

「お友達なんだから当然だよ」



 入間くんの表情は何処かぎこちなくて、それ程までに悩んでいたんだと胸が痛むのと同時に、力になりたいと思ったとき「僕はこれから用事があるから、二人はここでゆっくり話していくといいよ」と笑みを浮かべ言うバラム先生。
 去り際に私を見て「頑張ってね」と言われ、誤解されてると確信する。

 準備室には、私と入間くんの二人きり。
 入間くんの表情は暗いままだけど、私達にじゃなくバラム先生に相談しに来たということは話しにくい内容なんだろう。
 無理に聞くのは良くないと思い、私は明るく振る舞おうと普段通りに言葉をかける。



「バラム先生がいたから緊張しちゃったよ」

「苦手な悪魔と顔合わさせてごめんね」



 私は首を傾げる。
 今は二人きりだからそんな風に言う必要なんてないのに。
 少しでも重い空気を軽くできればと「入間くんには話したでしょ。私がバラム先生の事を好きだって」なんて改めて口にすると恥ずかしいけど、無駄ではなかったみたい。
 入間くんは伏せていた顔を上げたかと思うと驚いた表情を浮かべてる。
 まるで初耳といった感じに見えるけど、もしかしたら記憶喪失だったり。
 それなら様子がおかしかったことも頷ける。
 本人から聞いたわけじゃないから断定はできないけど、確かめる方法はある。



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