苦しい恋を終わらせて

□2話 日常品+a
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 翌朝、目を覚ましたのは朝の6時。
 昨日洗った服に着替え下へ降りていく。

 勝手に使っていいのかわからないけど、キッチンを借りて冷蔵庫にあった食材で朝食を作る。
 簡単な物だが、味噌汁と目玉焼きを作り、あとは千切りキャベツを皿に盛り付け完成。

 ジャガイモや人参などもあり、沖矢さんが阿笠博士の家に行く理由として作る肉じゃがやカレーを思い出しクスリと笑う。
 確か火が通ってなくて、哀ちゃんに指摘されていたはず。
 意外に料理もしてるんだよね、と失礼な事を考えていたら「おはようございます」と声をかけられドキッとする。

 現在の時刻6時30分。
 ハイネックの服を着て、変声機の電源もオンにしている沖矢さんがやってきた。
 いつ何があっても対処できるようにしてるあたり、流石赤井さん。



「美味しそうですね」

「勝手に冷蔵庫の物を使ってしまったんですが大丈夫でしたか? もし必要でしたら今日出かけるので買ってきます」

「構いませんよ。冷蔵庫の物は自由にしてください」



 お言葉に甘えてこれからも使わせてもらおうと思うけど、またいつ沖矢さんが阿笠邸に行くことになるかわからないから、ある程度の食材は常備しておいた方がいいかな。
 なんて余計な気遣いかもしれないけど。
 沖矢さんが使わなければ私が使えばいいことだ。


 二人朝食を済ませると、私は食器を洗う。
 味噌汁と目玉焼きに上手いも下手もないと思うけど、自分が作ったものを食べて美味しいと沖矢さんに言ってもらえたのは嬉しい。
 それも、名探偵コナンで一番好きなキャラに。

 元いた世界では独り暮らしだったから、こんな風に人と食事をするのも久しぶりのこと。
 食器を洗うのも苦に感じない。


 片付けが終わり時計を見ると、時間は7時15分過ぎ。
 約束の10時にはまだ時間があるので、一度部屋に戻って鞄の中身をチェックする。

 所持金は2万と少し。
 元の世界での口座はこっちでは使えないだろうから、財布に入っているお金が私の全財産。
 この世界での働き先も見つけなくてはいけないなと考えながら、一度鞄の物を全て出す。

 入っていたのは最初に見たときと同じで、本、ハンカチ、ティッシュ、財布、家の鍵、そして枕元に置いたままのスマホ、計6点。

 この中で使わなそうなのは、元いた世界の家の鍵。
 そして、一番の違和感は仮面ヤイバーの本。
 この2点は机の上に置き、他は鞄に戻す。
 スマホは安室さんからの連絡があるといけないのでポケットに入れて、ダイニングへと降りていく。

 ダイニングには、椅子に座ってノートパソコンを弄る沖矢さんの姿がある。
 組織関連や阿笠邸の監視などをしているんだろうか。
 沖矢さんや安室さんがノートパソコンを触ってると、そういうことしか想像できない。

 邪魔にならないように椅子に座り、沖矢さんの姿を眺めていると「先程出掛けられると話していましたが、こちらの世界でのお店はわかるのでしょうか」と突然声をかけられた。

 そう言われて気づいたが、安室さんと出かけるということを伝え忘れていた。
 独り暮らしの生活に慣れてると、こういうことを忘れてしまいがちだ。

 私が身を置いている環境が環境なだけに、伝えておいた方が安心できる。
 取り敢えず今日は安室さんと10時から約束していること、必要な物を買ったりこの近辺を案内してもらう予定であることを話す。



「そうでしたか……。彼が一緒なら安心ですね」



 何だろう、今の少しの間は。
 やっぱり予め伝えておかなかったから怒らせてしまったんだろうか。

 誰かと一緒に暮らすなんて家族以外で初めてで、どこまで知らせた方がいいのかわからない。



「あの、やっぱり出かけるときはお伝えしておいた方がいいでしょうか」

「そうですね。誰と出かけるかも話していただけますか」



 その言葉に「わかりました」と返事をする。
 ベルモットみたいに変装が上手い人もいるから、そういう人に騙されないためにも報告は必要なんだろう。
 名探偵コナンの世界、想像以上にハード。

 これも自身の安全と、周りに迷惑をかけないためだから仕方のないこととして受け入れ、慣れていくしかない。
 まだしばらくは伝え忘れたりしそうだけど。



「沖矢さんは今日、何をして過ごされるんですか?」

「そうですね。倉山さんには朝食を作っていただいたので、今日の夕食は私が作りましょうかね」



 それはつまり、一日家の中にいるという解釈でいいのだろうか。
 考えてみれば、留守をしっかり守ることを条件として、工藤邸の自宅警備員になったわけだから、気軽にフラフラと出かけられないのは当たり前だった。

 取り敢えず私は沖矢さんの手作り夕食を楽しみに、今日一日で日常品を揃えて、この辺のお店も大体でいいから覚えよう。



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