魔入りました!入間くん
□盗みの目的
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「これで決まりだな。そんじゃ」
「待って。まだピン返してないでしょ」
サラッと持っていかれるところだったけど、見逃すほど甘くはない。
明日は先ず盗まれないように警戒しないといけないんだから、今から気を張っておかなければ。
返してもらったピンで髪を留め「明日から覚悟してよね」と宣戦布告。
予め盗まれる事がわかっていれば警戒もできるし、簡単に盗ませなてなるものかと勝負心に火をつけ明日からのゲームを楽しみにその場を去った。
そしてやって来た勝負当日。
何を盗まれるかわからないため、教室に着くとジャズくんから目を離さずにいた。
彼が立ち上がる度、動く度に警戒したけど特に接触もないままお昼。
まさか忘れてるんじゃないかと声をかけたいけど、そう思わせること自体が作戦だったら自分から取られに行くようなもの。
「リタ、何かあった?」
私の様子がおかしいことに気付いたのか、隣でお昼を食べていたイルマくんに声をかけられた。
折角友達と四人でお昼を食べているのに、こんな時まで考えて周りに心配をかけちゃうなんてダメだよね。
「ううん、何でもない。イルマくんは今日もいい食べっぷりだね」
「流石イルマ様です」
「イルマちの胃袋って凄いよねー。どこに繋がってるんだろ」
皆でワイワイと騒いでいたとき、スッと風が通ったような感覚を感じたと同時に、前髪がサラリと垂れてきた。
手を伸ばし触るとピンがない。
まさかと思い視線を向ければ、ヒラヒラと後ろ手に振るジャズくんの手には私のピン。
隙を見せた自分の失態だ。
でも今度は私が取り返す番。
この勝負に勝てばジャズくんの盗み癖を無くすことができるんだから負けるわけにはいかない。
お昼時間が終わり、私はジャズくんが隙を見せるのを待った。
警戒する様子すらなく皆と話している姿を見ると、自分がなめられてるのがわかる。
取り返して見返したいとは思うけど、ただの人間が悪魔から物を奪い返すなんて芸当出来るはずがない。
教室を出ていくジャズくんを追い、ピンがしまわれている彼のポケットに視線を向ける。
無理矢理奪い取りに行けなくはないけど、ポケットから取る前に腕を掴まれ阻止されるだろう。
その後、私はピンのことを諦めたかのように普通に過ごした。
勿論これは作戦。
油断したお昼時をジャズくんが狙ったように、私も諦めたと油断させて最終日ギリギリを狙う。
チャンスは一度きりだけど、何の能力もない私が出来る唯一の方法。
「リタちって、好きな子とかいるの?」
「え? うーん、いないかな」
唐突なクララちゃんの質問に、一度考えては見たけど思いつかなかったから正直にそのまま答える。
人間界にいた頃から私は、友達も好きな人もいなかった。
イジメられていたとかではなく、私自身が必要と思わなかったから。
それが魔界に来て三人も友達ができちゃうなんて。
最初はそんなつもりなかったのに、三人のペースに巻き込まれていくうちに気付いたら友達になっていた。
必要ないと思っていたのに、いざ出来たらこんなにも大切な存在になるんだと初めて知り、今では四人でいる時がどんな時間より心地良い。
だが恋は違う。
人間界にいた頃、クラスで恋愛の話が増え始めて、ドロドロした関係も嫌というほど耳にした。
相手には彼女がいたけど奪ったとか、フラれた翌日にはもう好きな人が出来たとか。
嫌でも聞こえてくる会話に吐き気がしたのを覚えてる。
テレビだってそう。
夫の浮気、妻の浮気、離婚、不倫。
私にとって恋愛は汚いもので、その考えは魔界にいる今も変わらない。
私には好きな人も好きな悪魔も存在しない。
あんな醜い関係になんてなりたくないし、知りたくもないから。
時間は過ぎ、日常生活を続けてようやくやってきた最終日。
今日の放課後でこのゲームは終了。
まだピンは奪い返せてないけど大丈夫。
準備はすでに済ませてある。
私からというのは伏せてもらい、ジャズくんに手紙を渡してもらうようにイルマくんに頼んだ。
何の変哲もない素朴な封筒。
中に入れた紙には「最後の授業の後、裏庭に来てくだい」と書いてある。
このタイミングでこの手紙、ジャズくんは勿論警戒するはず。
でもまさか、向かう途中で何かあるとは思いもしないだろう。
予定通り最後の授業を終えると一人抜け出すジャズくん。
私は気づかれないように後を追う。
ここで登場するのが認識阻害グラス。
これは売店で購入したんだけど、掛ける事で他者に対象を認識させない凄いアイテム。
隠密行動にはもってこい。
このゲームの交渉の時これを見せたから受けてくれたってのもあるんだよね。
流石に何もなしじゃジャズくんの圧勝だろうから。
早速掛けて再び追跡。
裏庭へと向う途中の警戒心が薄れているタイミングが勝負。
ゆっくり近づいていき、慎重にポケットの中に手を入れようとしたその時、ガシッと手首が掴まれた。